マルセイユとリヨンに意地は見えたか=欧州CLに挑むフランス勢

横尾愛

今季のマルセイユは「火の攻撃、ガラスの守備」

昨シーズンの再現なるか。マルセイエたちの期待は高まる 【横尾愛】

 2007年10月3日。マルセイエ(マルセイユ・ファン)なら、この日をよもや忘れまい。彼らがいくつも持っているであろう“記念日”の一つだ。マルセイユが欧州チャンピオンズリーグ(以下CL)のグループリーグで、リバプールの聖地・アンフィールドにてフランス勢初となる白星を飾った歴史的な日である。
 ホームのベロドロームでは0−4とあえなく散ったマルセイユだが、約一年後、両者は再びCLで同組に振り分けられた。リベンジを、あわよくば奇跡の再現を願いつつ、ファンたちはこの日もオフィシャル・ショップの前で辛抱強く開店を待っていたのだ。

 今季のマルセイユは、フランス代表FWベンアルファを筆頭に、爆発的な攻撃力を備えるアタッカー陣が魅力。ところがリーグ開幕戦ではレンヌを相手に壮絶な打ち合いを演じた末、4−4の引き分けに終わった。スコアレスドローが多く、あまり得点が入らないことが嘆かれるフランスリーグでは、なかなか珍しい結果だ。かくして今季のマルセイユについたキャッチフレーズは、「火の攻撃、ガラスの守備」。成長著しいフランス代表GKマンダンダが見せる数々のスーパーセーブをもってしても、失点の多さはカバーし切れていない。
 原因の一つには、両サイドバックのボナールとタイウォが上がりすぎることも挙げられるだろう。だが、それとて「火の攻撃」の一部。リバプールを迎える直前の第5節、ボルドー戦(1−1)でも、ゲレツ監督はボルドーのMFウェンデルに疲れが出始めたのを見て、「お前の対面の相手、ウェンデルの耳から煙が出てるぞ、行け!」とボナールをけしかけたというのだから。勝つための解決策はただ一つ、相手より1点でも多く取る事である。

昨シーズンの再現を狙ったが……

 前述の“アンフィールドの奇跡”で見事な決勝ゴールを決めたMFバルブエナは、そけい部の手術から復帰してきたばかり。今シーズン序盤から好調を維持するアルジェリア代表MFジアニが攻撃の中心に座るのか、それともリバプール戦のシンボル的存在であるバルブエナが先発に返り咲くのか。この日の「火」をつかさどるのが誰になるのか注目されたが、ゲレツ監督はトップ下を置かずに3人のMFを配置する4−3−3を選んだ。ディフェンスラインの前にMFエムバミ、やや前方にMFサナ、MFシェイルーという顔ぶれ。エムバミは典型的な守備的MFで、フランスで言うところの「6番」である。またサナも本職は「6番」で、センターバックもこなす選手。唯一シェイルーが「6番」でありつつ攻撃を作る「10番」の仕事も時折見せる、言ってみれば間を取って「8番」のタイプだ。やや守備に傾いた布陣は、明らかにリバプールの中盤を警戒してのことだった。

 しかし先手を取ったのは、守備に力を割いたマルセイユ。23分、MFエムバミがボールを落ち着かせ、左でパスを要求するベンアルファには渡さずに中央のシェイルーへ。シェイルーはこれをワンタッチで前にはたき、右から駆け出したサナへと送る。サナは落ち着いてGKレイナとの一対一を制し、右隅へとボールを流し込んだ。弱火になるかと思われた攻撃は、消えてはいなかった。マルセイエたちは大喜び、一斉に発炎筒に火をつけたのである。
 ところが、その直後。またボールを落ち着かせようとしたエムバミが、今度は持ちすぎた。すかさずFWのトーレスがボールをむしりとり、右を走るカイトへパス。カイトはマイナスに折り返し、トーレスの背後に入ってきたMFジェラードが右足を振り抜いた。ゆったりとした弧を描いて右サイドネットを揺らす、素晴らしいゴール。マルセイエたちの焚いた発煙筒の煙がまだ漂っているベロドロームで、リードはわずか3分しか続かなかった。
 さらに32分。カウンターから左サイドのFWバベルにペナルティーエリア内に切り込まれ、DFジュバールがPKを献上。大ブーイングの中で登場したジェラードは、右ポストに当てながら決めたが、これは蹴り直し。しかし“効率のいい”キャプテンは、2度目のPKも全く同じ位置に決めてきた。その間9分、あっという間の逆転劇である。

負けはしたものの火は消えず

期待されたベンアルファ(中央)だが、この日は精彩を欠いた 【Getty Images/AFLO】

 形勢不利と見たゲレツ監督は、前半が終わらないうちにエムバミを下げてバルブエナを投入。さらに57分には精彩を欠いたベンアルファに代えてジアニを送り出し、消された火をもう一度おこそうと試みる。後半はリバプールの足が少し止まり、69分にはジェラードを下げて閉店の準備を始めたため、マルセイユは同点を目指して猛攻を仕掛けた。しかし、ジアニは絶好のチャンスを2度ふかし、ロスタイムにセネガル代表FWニヤングがつかんだ好機も、GKレイナがしっかりとブロック。試合は1−2で終了し、マルセイユは黒星スタートとなった。

「この試合から得た教訓は?」と聞かれたゲレツ監督は、「得点した直後でも、しっかり集中しないといけないということだ」と応じた。奮闘したものの、サポーターの(ものすごい)期待には応えられなかったバルブエナは、「引き分けも狙えたのに。でもこのレベルじゃ、エラーは高くつくね」と肩を落とした。

 だが、マルセイユの火は消えていない。ゲレツ監督はこの敗戦を“プティット・カタストロフ”(小さな災害)と表現したが、これは同日、ボルドーがチェルシーに0−4で大敗したため。“プティット”で済んでまだ良かったのだ。ボナールも、「修正点も後悔もたくさんある。それでも僕らは、リバプール相手にしっかりやれたよ」とポジティブである。そんなボナールを見てイングランド人記者は、私の袖をそっと引いて聞くのだった。
「あれは誰だい?」

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著者プロフィール

1976年生まれ。大阪府出身。大阪外国語大学フランス語学科卒業。在学中にパリへ留学、そこで98年フランス代表の優勝を目の当たりにする。帰国後1年半のメーカー勤務を経て、現在東京のTV番組制作会社でサッカードキュメンタリーなどの番組制作に携わる。「サッカーをよく知らなくても面白い、サッカーファンならなおさら面白い」ものを書くのが信条

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