マルセイユとリヨンに意地は見えたか=欧州CLに挑むフランス勢
今季のマルセイユは「火の攻撃、ガラスの守備」
昨シーズンの再現なるか。マルセイエたちの期待は高まる 【横尾愛】
ホームのベロドロームでは0−4とあえなく散ったマルセイユだが、約一年後、両者は再びCLで同組に振り分けられた。リベンジを、あわよくば奇跡の再現を願いつつ、ファンたちはこの日もオフィシャル・ショップの前で辛抱強く開店を待っていたのだ。
今季のマルセイユは、フランス代表FWベンアルファを筆頭に、爆発的な攻撃力を備えるアタッカー陣が魅力。ところがリーグ開幕戦ではレンヌを相手に壮絶な打ち合いを演じた末、4−4の引き分けに終わった。スコアレスドローが多く、あまり得点が入らないことが嘆かれるフランスリーグでは、なかなか珍しい結果だ。かくして今季のマルセイユについたキャッチフレーズは、「火の攻撃、ガラスの守備」。成長著しいフランス代表GKマンダンダが見せる数々のスーパーセーブをもってしても、失点の多さはカバーし切れていない。
原因の一つには、両サイドバックのボナールとタイウォが上がりすぎることも挙げられるだろう。だが、それとて「火の攻撃」の一部。リバプールを迎える直前の第5節、ボルドー戦(1−1)でも、ゲレツ監督はボルドーのMFウェンデルに疲れが出始めたのを見て、「お前の対面の相手、ウェンデルの耳から煙が出てるぞ、行け!」とボナールをけしかけたというのだから。勝つための解決策はただ一つ、相手より1点でも多く取る事である。
昨シーズンの再現を狙ったが……
しかし先手を取ったのは、守備に力を割いたマルセイユ。23分、MFエムバミがボールを落ち着かせ、左でパスを要求するベンアルファには渡さずに中央のシェイルーへ。シェイルーはこれをワンタッチで前にはたき、右から駆け出したサナへと送る。サナは落ち着いてGKレイナとの一対一を制し、右隅へとボールを流し込んだ。弱火になるかと思われた攻撃は、消えてはいなかった。マルセイエたちは大喜び、一斉に発炎筒に火をつけたのである。
ところが、その直後。またボールを落ち着かせようとしたエムバミが、今度は持ちすぎた。すかさずFWのトーレスがボールをむしりとり、右を走るカイトへパス。カイトはマイナスに折り返し、トーレスの背後に入ってきたMFジェラードが右足を振り抜いた。ゆったりとした弧を描いて右サイドネットを揺らす、素晴らしいゴール。マルセイエたちの焚いた発煙筒の煙がまだ漂っているベロドロームで、リードはわずか3分しか続かなかった。
さらに32分。カウンターから左サイドのFWバベルにペナルティーエリア内に切り込まれ、DFジュバールがPKを献上。大ブーイングの中で登場したジェラードは、右ポストに当てながら決めたが、これは蹴り直し。しかし“効率のいい”キャプテンは、2度目のPKも全く同じ位置に決めてきた。その間9分、あっという間の逆転劇である。
負けはしたものの火は消えず
期待されたベンアルファ(中央)だが、この日は精彩を欠いた 【Getty Images/AFLO】
「この試合から得た教訓は?」と聞かれたゲレツ監督は、「得点した直後でも、しっかり集中しないといけないということだ」と応じた。奮闘したものの、サポーターの(ものすごい)期待には応えられなかったバルブエナは、「引き分けも狙えたのに。でもこのレベルじゃ、エラーは高くつくね」と肩を落とした。
だが、マルセイユの火は消えていない。ゲレツ監督はこの敗戦を“プティット・カタストロフ”(小さな災害)と表現したが、これは同日、ボルドーがチェルシーに0−4で大敗したため。“プティット”で済んでまだ良かったのだ。ボナールも、「修正点も後悔もたくさんある。それでも僕らは、リバプール相手にしっかりやれたよ」とポジティブである。そんなボナールを見てイングランド人記者は、私の袖をそっと引いて聞くのだった。
「あれは誰だい?」