バレー男子、植田ジャパンが制した「トータルディフェンス」=小林敦の五輪最終予選解説

小林敦
 バレーボールの北京五輪世界男子最終予選兼アジア大陸予選(5月31日〜6月8日)が、東京体育館で開催されている。日本は韓国との第3戦で3−1(25-21、21-25、25-23、25-19)の勝利、続くタイ戦では3−0(25-23、25-14、25-16)のストレート勝ちを収め、第4戦を終えた時点で3勝1敗の全体2位、アジアでは首位につけた。
 最終予選は8チームの総当たりリーグ戦で争われ、全体の1位とそれ以外のアジア勢最上位が五輪に進む。

ブロックのシステムと反応方法とは?

<図1>韓国戦先発メンバー 【スポーツナビ】

 6月3日に行われた韓国戦、3−1で勝利を収めた日本はこの試合、サーブを含めたトータルディフェンスで優位に立ってゲームを進めることに成功しました。今回はこの日本のディフェンスをピックアップして解説していきたいと思います。

 スターティングメンバーは図1のとおり。韓国はオーソドックスな分業型(配置は独特ですが)、日本は理想とする超攻撃型の布陣で臨みました。
※ジャンプフローターサーブに対しては、韓国の14番・守備的WSソク・ジンウク選手と5番・リベロのヨ・オヒョン選手が常に2枚レセプションを形成していたので、マッチアップは考慮しません。

 まずブロックシステムについて説明をしてから、解説に入りたいと思います。テレビのアナウンスや解説を聞いていますと、リード、コミット、スプレッド、バンチ、リリース、マンツーマン、などの用語が反乱していまが、いまひとつ確かな分類がなされていないような気がします。また、相手のコートに手を突き出す(キルブロック)だけがブロックではなく、自チームのコート内で手を出し(ソフトブロック)ワンタッチを取ることを目的としたブロックもあることも付け加えます。ブロックシステムを選択する際には確かな分類を理解した上で、状況や場面に応じた最良のシステムを選択する必要があります。

 まず始めに考慮しなくてはならないのが、ブロックの配置です。
・バンチ(束)=コート中央に3枚のブロッカーを集合させた配置。
・スプレッド(広げる)=3枚のブロッカーに広がりを持たせる配置。
・リリース(離す)=レフト側、もしくはライト側のブロッカーのみ離れる配置。
・デディケート(専念する)=3枚のブロッカーを集合させた状態でレフト側、もしくはライト側に寄る配置。
 以上が主なもので、そのほかアジャスト(調整)、ステイ(とどまる)、スタック(積み重ねる)などあります。 

 次にブロックの反応方法です。
・リード(読み)=リードとは1枚のスパイカーに複数のブロッカーを参加させる事を目的とし、セッターの癖や、相手の状況を見て反応する跳び方です。
・コミット(委託)=コミットは目的とするスパイカーにトスが上がるか否かにかかわらずブロック動作を行い、トスが上がった際にはタイミングよく完成されたブロックを最低1枚は配置する事を目的としています。コミットは、主に相手のクイックに対して用いられますが、高速のサイド攻撃に対してもコミットブロック的な反応を行うチームも増えています。
・ゲス(推測)=リード、コミットどちらにも属さない当てずっぽうな反応の事です。

 そのほか、マンツーマンブロックと耳にすることがあるかと思いますが、実際のところ現代バレーにおいてマンツーマンシステムでブロック戦術を組んでいるチームはほとんどありません。マンツーマンシステムというものは、例えば女子バレーでよく出現するミドルブロッカー(以下MB)のブロード攻撃に対して、ディフェンス側のMBがレフトブロッカーとチェンジして走り込んでブロックに参加するようなシステムのことを言います。 しかし高速化の進んだ現代バレーにおいてはマンツーマンシステムでは対応できず、ゾーンごとにマークの受け渡しが行われます。前述したようなケースではレフト側のブロッカーがマークを引き継ぎブロード攻撃のブロックを行います。これをゾーンブロックと呼んでいます。

日本のブロックシステムは?

 さて、では日本のブロックシステムはどのようなシステムなのか? という問題ですが、はっきりと言えることはゾーンブロックシステムと言うことだけであり、バンチリードブロックを採用していることもあれば、スプレッドリードブロックを採用していることもあります。
 その中で今回の韓国戦でたびたび行われていたのが、ライト側へのデディケートリードブロックです。3枚のブロッカーがライト側(相手のレフト攻撃側)に寄りクイックへは主にウイングスパイカー(以下WS)とMBが反応し、レフト攻撃にはセッターとオポジット(スーパーエース)がしっかりとブロックを形成しMBが合わせていく、ライト攻撃にはWSがクイックのアシストを行った後に反応しMBもできる限りブロックに参加するシステムを採用していました。相手の攻撃を封じる優先順位を表せば、「クイック攻撃=レフト攻撃>ライト攻撃」となります。
 このシステムを採用した大きな理由としては、4番ムン・ソンミン選手のライト攻撃のスピードが関係していたと思います。4番ムン・ソンミン選手のライト攻撃のスピードがセッターの手を離れてからヒットまでの間、約1.2秒、なかなかブロックが機能しなかったイタリア戦のオポジット14番アレッサンドロ・フェイ選手のライト攻撃のスピードが約1.0秒でした。初戦のイタリア戦で1.0秒のライト攻撃を体感していた越川選手、石島選手にとって、クイックのアシスト後に4番ムン・ソンミン選手のライト攻撃をマークする事はそれほど難しい要求ではなかったのではないでしょうか。

 ディフェンスでは、あらゆる方法で相手の攻撃を限定する事によって機能しやすくします。アナリストから得る情報によって相手攻撃を限定することや、強力サーブを打ち込むことによってクイックをなくさせることも限定する方法の一つです。韓国戦の場合はスピードの遅い攻撃への対応を後回しにし、その他の攻撃を重視するという限定法を多く用いたようです。そのため、途中出場したセッター・朝長孝介選手のブロック力が日本の弱点となるはずが、あらかじめライト側(レフト攻撃側)にデディケートしていたことにより、レフト攻撃に複数ブロックを形成することを可能にし、弱点とはならなかったと考えられます。

1/2ページ

著者プロフィール

深谷高校、筑波大学を卒業後、東レアローズへ入部。2000年5月〜05年5月までキャプテンを務め、05年3月にVリーグ初制覇。また、04年のアテネ五輪最終予選では全日本男子のキャプテンも務めた。06年5月の第55回黒鷲旗優勝を最後に現役引退。現在は東レアローズコーチ。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント