バレー男子、植田ジャパンが制した「トータルディフェンス」=小林敦の五輪最終予選解説
マッチアップにこらえた日本 自滅した韓国
<図2>日本のジャンプサーバーと韓国ディフェンスローテのマッチアップ 【スポーツナビ】
図2が1セット目から4セット目までの日本のジャンプサーバーと韓国のレセプションフォーメーションとなっています。1セット目は見事に日本のジャンプサーバーの得意コースに攻撃的WS11番イ・ギョンス選手がマッチアップされているのが確認できます。サーブ自体も有効に機能してこのセットを難なく奪います。
しかし、韓国がローテーションを変化させた2セット目、日本の得意コースには守備的WS14番ソク・ジンウク選手がマッチアップされてしまいます。そのため、日本のサーブは効果を上げることができずこのセットを奪われてしまいます。
勝負のかかった3セット目、日本が2セット目のマッチアップを避けると予測した韓国ベンチは動きます。2セット目と同じマッチアップを狙いローテーションを戻したのです。ところが日本はローテーションを変えず勝負に出たために、韓国としては裏面に出てしまいました。これにより、またしても日本のジャンプサーバーの得意コースと攻撃的WS11番イ・ギョンス選手がマッチアップされたのです。それでも、日本のジャンプサーブは、11番イ・ギョンス選手のレセプションを乱す事ができず、終盤までもつれた展開となっていました。
これは韓国にとって痛恨のミスでした。なぜなら、このセット日本のジャンプサーブは機能せず、ジャンプフローターサーブも守備的WS14番ソク・ジンウク選手のレセプション能力が高いため効果が奪えない苦しい展開だったからです。しかし、9番シン・ヨンス選手が投入された事によって、11番イ・ギョンス選手と9番シン・ヨンス選手によるレセプションの分担が開始されました。基本的に攻撃的WSは所属のチームでもジャンプフローターサーブのレセプションを免除されているケースが多く、絶対的な経験が不足し、不得意としている選手が多いため、超攻撃的布陣は大きなレセプションのリスクを背負います。(石島選手、越川選手はかなりレベルが高いのでリスク以上のリターンが見込める)
そして、その“ひずみ”は後半の勝負所におとずれました。松本選手のジャンプフローターサーブが11番イ・ギョンス選手のレセプションを乱し日本がリードを広げると、一気にこのセットを奪い返します。4セット目、韓国ベンチは2セット目と同じマッチアップを作り出すことに成功しますが、スタートでは守備的WS14番ソク・ジンウク選手に代わり、攻撃的WS9番シン・ヨンス選手を起用してしまいました。ジャンプフローターサーブ3枚を要する日本にとっては、マッチアップ以上に戦いやすい状況となったのです。韓国は終盤14番ソク・ジンウク選手を慌ててコートに戻しますが時すでに遅しで、日本が危なげなくこのセットを物にし、ゲームセットとなりました。
この試合では、韓国がさまざまな動きを見せる中、日本ベンチがじっと我慢して動きを見せずにいるうちに、韓国側が自滅していってくれたような試合となりました。戦況を見極めたベンチとアナリストの貢献度の高い試合だったのではないでしょうか。
複数ブロッカーの重要性を証明したタイ戦
<図3>タイ戦先発メンバー 【スポーツナビ】
この試合は技術レベルの差が大きく現れた試合となりました。1セット目は、タイのオポジット3番ワンチャイ・タブゼッセット選手を中心とする攻撃をなかなか押さえ込むことができず苦しい場面も見られましたが、タイの攻撃に対して複数ブロックを形成する機会を数多く出現させていたため、常にプレッシャーを与え続けている印象を受けました。案の定、2セット目以降は、日本のブロックが効果的に機能し、危なげなく勝利を手にすることができました。当然ブロックで押さえ込む、ワンタッチを取るということが理想ですが、常に複数のブロッカーを参加させることにより、相手にプレッシャーを与え続ける事がとても重要であることを証明してくれた試合となりました。
また、今大会初めてスターティングメンバーとして、コートに立った朝長選手のトスワークは、とても基本に忠実なトスワークだったと言えます。1セット目はクイック中心の組み立てを見せブロックの意識をセンターに寄せ、2セット目にはセンターに引き付けられた相手のブロックをかわすようにサイド中心に組み立て、3セット目は時間差を含めたセンターとサイドを織り交ぜながらの組み立てで相手に的を絞らせない努力をしていました。宇佐美大輔選手とは対照的な彼のプレースタイルが、セッター以外はほぼ固定されたスターティングメンバーを、2種類のチームに分けているといっても過言ではないと思います。
いよいよ、6日(金)にはオーストラリア戦が待ちうけています。オーストラリアに勝てば北京の切符をほぼ手中に収めるといって間違いないと思います。もう負けられないオーストラリア、後がないチームの恐ろしさはイタリア戦で十分に味わったはずです。最高のパフォーマンスを発揮して北京の切符獲得に前進してもらいたいものです。
<了>
※次回は6月9日(月)掲載予定。