体操王国ニッポン、五輪切符は誰の手に!?=NHK杯見どころ

日本体操協会:遠藤幸一

春先のシーズン幕開けに「波乱」はつきもの

冨田ら、アテネの金メダリストたちもNHK杯に照準を合わせている 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

 体操競技の年間トレーニング計画において、冬場は、前シーズンの反省をもとに新しい技を覚えたり構成を変えたりして、自身を成長させる充電期である。もちろん選手たちにとっては、心身共に消耗した部分をしっかり回復させる、非常に重要な時期でもある。

 しかし、そうした成長の陰で選手が失っているものも多い。この時期は実戦から遠ざかるため、試合における体力面でのペース配分や緊張した心理面でのコントロールなどを忘れてしまうのだ。慣れない新しい技の発表に加え、試合勘が鈍っていることもあり、春先のシーズン幕開けとなる大会に“波乱”はつきものだ。ましてやシーズン初めの大会が、選手たちにとって最高の舞台である五輪の代表選考会ともなると、波乱は必至と言える。

10点満点廃止が引き起こした影響

 また、10点満点を廃止したルール改正も選手を困惑させているようだ。10点満点ルールの時代には、多くの選手がすでに4年目の五輪イヤーには演技価値点10点を達成しており、それゆえ本番までに演技の質を十分に高める時間があった。しかし上限が廃止されたことによって、上を目指せば演技構成を定めきれず、その結果、習熟度を高める時間を失うことになってしまったのだ。実際、4月に開催された北京五輪2次選考会においても、習熟不足を思わせるミスが散見された。

 アテネ五輪で団体金メダルの立役者となった一人、中野大輔(九州共立大学クラブ)はけがを押して出場し、つり輪の後方かかえ込み3回宙返り下り(F難度)の着地を決めるなど素晴らしい演技を見せてくれた。しかし、痛めていた個所を悪化させたため、2日目に棄権した。
 また、ナショナル強化指定選手を見ると、女子は12名全員が最終選考会へ駒を進めたが、男子は通過18名の中に山室光史(日本体育大学)と岡村康宏(日本体育大学)の名が消えた。けがやミスによる予選落ちだったが、残念な気持ちも残る。

若さあふれる演技が魅力の内村

2次選考会でトップに立った大学生の内村。初の五輪切符を手にすることができるのか!? 【Photo:杉本哲大/アフロスポーツ】

 さて、いよいよ五輪代表を決定するNHK杯が、ゴールデンウイークの最後となる5月5日、6日の2日間、岡山の桃太郎アリーナで開催される。2次選考会でトップに立ったのは、現在急成長中の内村航平(日本体育大学)。若さあふれる演技が魅力的だ。

 アテネ五輪団体金メダルのメンバーは、冨田洋之(セントラルスポーツ)が2位、鹿島丈博(同)が4位、塚原直也(朝日生命)が7位、米田功(徳洲会体操クラブ)が10位、そして世界選手権個人総合3位の水鳥寿思(徳洲会体操クラブ)は11位につけている。2次選考会の得点は半分となるため、代表決定競技会となるNHK杯の2日間は非常に重要。これまでも多くのドラマがこのNHK杯で生まれてきた。今回はどんなドラマが展開されるか。春先、各テレビ局ともに新ドラマが始まっているが、五輪イヤーに盛り上がるスポーツ界におけるシナリオのないドラマも、ぜひ楽しみにしたい。

<了>
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著者プロフィール

1961年東京生まれ。日本体操協会常務理事・総務委員長。体操の金メダリストである父親を持つものの、小学、中学はサッカーに明け暮れていた。高校で体操に転身。国際ルールのイラストレーターとして世界中の体操関係者にその名を知られている。

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