初Vの宇野昌磨、涙に込められた思い 「追われる立場」経験し次なるステージへ

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課題にしていたセカンドジャンプ

宇野昌磨(中央)が圧勝で全日本選手権初制覇を果たした 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 宇野昌磨(中京大)が最後のジャンプ、3回転サルコウの構えに入る。着地した瞬間、宇野には樋口美穂子コーチの声が聞こえた。「行け!」。すると反射的に体が動いた。そして、そのまま3回転トウループを跳ぶ。見事なコンビネーションジャンプとなった。

「最初は単発の3回転サルコウで終わろうとしていました。あまり自信がなくて、スピードもつかなかったので……。でも跳ぶ前に先生が視界に入って、サルコウを降りたときに声が聞こえた。『跳ばなければ』と、とっさに跳んだジャンプが思いのほか良かったんです」

 演技が終わった瞬間、宇野はひざに手をついて、涙を流した。合計得点は280.41点。2位の田中刑事(倉敷芸術科学大)に31点差をつける圧勝で、全日本選手権初優勝を飾った。

 ただ、宇野にとっては優勝したことだけがうれしかったわけではない。

「やっと練習してきたことをこの本番で出せました。良い演技ではなかったんですけど、課題としてきたことを1つでもクリアすることができた。それがうれしかったんです」

 宇野が課題にしてきたこと。それはコンビネーションの際のセカンドジャンプだった。今大会のショートプログラム(SP)では、4回転フリップに3回転トウループをつけようとしたが失敗。フリースケーティング(FS)でも後半のトリプルアクセル、4回転トウループが単独となった。しかし、そこから3回転ルッツに2回転トウループをつけてリカバリーすると、3連続ジャンプに成功し、最後の3回転サルコウにも3回転トウループをつけることができた。

「あそこでサルコウだけを跳んで終わっていたら、その後の涙はなかったですし、やって良かったなと思います」

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SP後は「ひどく落ち込んだ」

 4連覇中の羽生結弦(ANA)がインフルエンザのため、大会直前に欠場を発表。宇野は一躍、優勝候補の筆頭に挙げられて、「追う立場」から「追われる立場」へと変わった。宇野自身は「特にプレッシャーは感じていなかった」と言うが、樋口コーチは「心のコントロールが難しかった」と話す。

 SPはフリップ、トウループと2つの4回転でミスを犯し、88.05点で2位発進。首位の無良崇人(洋菓子のヒロタ)とは2.29点差しかなかったため、逆転は十分に可能だった。しかし、練習してきたコンビネーションを失敗したことにショックを受けた。

「たくさん練習してきたので、けっこう落ち込んでいましたね。しかもそれをなかなか切り替えられず、朝の練習に持ち込んでしまった。でも悔しい思いと辛い気持ちに疲れて、どうでもよくなり、それで開き直れた部分はあります」

 FSの公式練習後は、女子の試合を見たり、外に出て食事をしたりして気分転換を図った。「普段はそこまで会話をしない」という樋口コーチとも、言葉を多く交わしてメンタルを整えた。それでも自分の出番が近づいてくると、楽しむ気持ちよりも「ジャンプを跳びたい」という欲が出てきて、その狭間で葛藤を繰り返した。

 最終滑走で迎えたFSは、直前に滑った無良が順位を落としたことで、宇野にとっては有利な状況が作られていた。だが、冒頭の4回転フリップはステップアウト、続く4回転トウループはオーバーターンとなり、雲行きが怪しくなってくる。しかし、前述のとおり3回転ルッツに2回転トウループをつけてリカバリーに成功すると、その後はコンビネーションを続けて決め、嫌なイメージを払拭(ふっしょく)した。

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