初Vの宇野昌磨、涙に込められた思い 「追われる立場」経験し次なるステージへ

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GPファイナルでの後悔をきっかけに

GPファイナルではネイサン・チェン(左)に0.34点及ばず3位だった宇野昌磨(右) 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 シニア2年目となった今季はスケートアメリカで優勝し、グランプリ(GP)ファイナルでも2年連続3位と、昨季同様に成長を続けている。羽生が不在だったとはいえ、全日本選手権のタイトルも獲得した。いずれ世界でも「追われる立場」に変わるときが来るかもしれない。

 宇野が今回の全日本選手権で学んだことは何なのか。

「すごく深い経験をさせていただきました。自信がついたというよりも、なくしたほうが強いかなという感じですが(笑)。自分はメンタルが弱いということに気づいたし、やはり練習はうそをつかない、絶対に無駄にはならないことが分かりました。また試行錯誤しながら一から作り直したいと思います」

 コンビネーションの練習に力を入れてきたのも、GPファイナルでジュニア時代から競ってきたネイサン・チェン(米国)に、僅差で敗れたからだった。「FSで2回転トウループを1つでもセカンドに付けることができたら2位にはなれた」という思いが、宇野と樋口コーチにはある。

 この後悔をきっかけとして、重点的に練習してきた課題を、宇野は今大会でクリアした。また1つ成長を遂げたと言っていいだろう。樋口コーチも「練習してきたことを最後に出せたのは本人にとっても自信になる。この経験はこれから先に必ず生きてくると思う」と、目を細めた。

4回転ループを組み込む可能性は?

宇野は現在のフリップとトウループに加え、4回転ジャンプの種類をさらに増やす可能性も示唆した 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 全日本選手権に優勝したことで、宇野は世界選手権の出場権を手に入れた。前回大会は7位に終わり悔し涙に暮れたが、振り返ってみると、そのとき涙した理由は「練習した成果を出せず、同じ失敗を繰り返した」から。今回とは逆のパターンだが、練習の成果を出せるか出せないかは、宇野にしてみれば結果と同等に大事なことなのだろう。

 ただ、この悔しさをバネにした宇野は、世界選手権の3週間後に行われたチームチャレンジカップで、史上初の4回転フリップに成功。そしてそれは今の宇野にとって最も大きな武器となっている。悔しさを経験して、そこから努力し、最大の成果を手にする。人の成長サイクルに則り、宇野は着実に進化を遂げている。

 現在の男子フィギュアスケート界は、空前の4回転時代。複数の4回転ジャンプをより多く、高い質で跳べるかが勝負の行方を左右する。宇野が跳べる4回転はフリップとトウループだが、今季中にもう1つ取り入れる可能性も示唆した。

「今の2種類では世界で戦っていけないなと思っています。その2種類でさえ、SPとFSでノーミスすることが難しい状況なので、他のジャンプを練習している場合ではないのかもしれないですけど、それでも練習していかなければいけないほど、世界のトップ選手は種類を増やして、難易度を上げています。僕は今、4回転ループを練習で毎日跳んでいて、サルコウもやっているんですけど、まれにしか跳べない。だからサルコウの可能性は低いと思いますが、ループについては調子が良いときには入れていきたいと思っています」

 それがどの舞台になるかは分からない。それでも遅かれ早かれ、「練習の成果」として披露される時が来るはずだ。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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