決勝ラウンドに不安を残したFC今治 三重戦での敗因は「プランB」の欠如

宇都宮徹壱

2戦目のゴールラッシュが与えた影響

広島戦の前に、選手に気合を注入する岡田武史CMO。今治は8ゴールを挙げて大勝した 【宇都宮徹壱】

 1次ラウンド2日目の12日、第1試合のカードは三重対北海道であった。前半19分、三重は存在感あふれるワントップ、藤牧祥吾が豪快なヘディングシュートで先制。しかし、この日は北海道の粘りに手を焼き、後半6分にはPKを献上して同点に追いつかれてしまう。それでも三重は失点から2分後、三重はカウンターから高田祥生が勝ち越しゴールを挙げ、さらに後半35分には加倉広海のゴールで3−1で快勝。勝ち点を6に積み上げた三重は、余裕をもって今治の試合を見守ることとなった。

 続く第2試合。前日、吉武監督のみならず岡田CMOから雷を落とされていた今治の選手たちは、この日は序盤からトップギアで猛攻を仕掛ける。開始早々の2分、上村岬の右からのクロスに桑島が頭で合わせて先制。8分には、相手のゴール前での混乱を突いて、中野圭が追加点。15分には左サイドからドリブルで切り込んだ長島滉大が、自らシュートを放って3点目を挙げる。後半も10分、16分、23分、そしてアディショナルタイムに2ゴールを追加して8−0で圧勝。長島がハットトリックを達成し、桑島と中野が2ゴールを挙げた。

 これで勝ち点6、得失点差+11とした今治は、三重を抜いてAグループのトップに立った。しかし吉武監督は「ここでたくさん点をとっても何もいいことはない」と、あえて苦言を呈している。「この大会のレギュレーションでは勝たないと意味がない。そういう大局観がない」というのが、その理由である。確かに、その指摘は一面正しい。それでも、この今治の大量得点が、他のグループに心理的なプレッシャーを与えたのは紛れもない事実であり、その意味ではむしろ評価されるべきであったと私は考える。

 2日目を終えた時点で、Bグループはアルティスタ東御(北信越)と三菱水島FC(全社枠/中国)が共に勝ち点6、Cグループは鈴鹿アンリミテッドFC(全社枠/東海)が6で東京23FC(関東)が5。奇しくもすべてのグループが、3日目に上位同士の直接対決となった。仮に今治が三重に敗れたとしても、他のグループが90分で決着が付けば、得失点差でアドバンテージがある今治が2位抜けできる可能性は非常に高かったのである。そして前述したとおり、3日目の第1試合が終わった段階で、Aグループの上位2チームが決勝ラウンドに進出することは「ほぼ確実」という、ほとんど消化試合のような状況であった。

対策を立てられやすい今治のサッカー

三重に敗れた直後の吉武博文監督(右)。決勝ラウンドまでの間にチームをどう立て直すのか? 【宇都宮徹壱】

 あらためて、三重戦での今治の敗因を考えてみたい。この試合、三重は何人かのキーとなる選手を入れ替えてきた。なかでも目を引いたのは、ブラジルから帰化した長身DFの太倉坐ドゥグラスをベンチに置き、ボランチの高田をセンターバックに下げたことだ。三重は今治と決勝ラウンドでも対戦するのが確実。となれば、情報戦を含んだラインナップだったのだろうか。試合後、三重の海津英志監督にその点について確認すると、「戦術的な判断です」という明快な答えが返ってきた。

「第1戦と第2戦は、おそらくこっちがボールを支配するだろうと。相手が引いてブロックする中では、セットプレーが大事になるので、ドゥグラスの高さを使うというのはありました。この3戦目は、今治がボールを動かしてくるということで、背後にすっと入ってこられるときにドゥグラスだと対応が難しい。それと、彼らはたぶん高さを使った攻撃はしてこない。だったら、背後に入ってくる相手への対応として、スピードのある高田を使うというのは、こっちに来る前から考えていました」

 要するに、今治のポゼッションサッカーは、相手に対策を立てられやすいのである。四国リーグレベルの実力しかなかった北海道や広島に対しては、圧倒的なポゼッションと洗練されたパスワークでねじ伏せることができた。しかし、ある程度の実力があるチームにストロングポイントを消される戦術で向かってこられると、とたんに沈黙を強いられてしまう。加えてこのチームには、ポゼッションサッカーが封じられたときの「プランB」が存在しない。ドリブルが得意な長島を投入してかき回すことはできても、高さやフィジカルで打開するようなタイプの選手が存在しないのである。よって3点リードされたゲーム終盤でも、今治は愚直にパスを回しながらゴールを目指すしかなかった。

 三重の勝利は、決勝ラウンドで対戦する鈴鹿や三菱水島にも勇気を与えたはずだ。そして、この試合で突きつけられた現実は、今治にとって非常に重たいものとなった。とはいえ、状況は決してネガティブなものばかりではない。吉武監督は「過去の例を見ると、1位で抜けていないとJFLに上がっていないのが現状。それは選手たちにも伝えていたし、だからこそ1位で抜けようと思った」と語っている。だが、これは明らかな事実誤認。10年にはAC長野パルセイロが、11年にはY.S.C.C.横浜が、12年にはSC相模原が、13年にはFC KAGOSHIMA(鹿児島ユナイテッドFCの前身)が、そして14年にはクラブ・ドラゴンズ(現流通経済大学ドラゴンズ龍ヶ崎)が、いずれもワイルドカードからJFL昇格を果たしている。そう、今治にも昇格のチャンスは十分にあるのだ。

 決勝ラウンドが開幕するのは25日。この11日間に、修正できることは限られているだろう。それでも今治には、これまで継続して作り上げてきたスタイルをブレることなく貫き、自信をもって決勝ラウンドに臨んでほしい。実際、残された道はそれしかないのだから。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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