過酷なトーナメントに臨むFC今治 全社の向こう側に見据える地域CL

宇都宮徹壱

1日で16チームがいなくなる大会

FC今治のサポーター。今年は地元での全社開催ということもあり、応援にもリーグ戦以上に力が入る 【宇都宮徹壱】

「ここで負けたら終わりだぞ!」

 鈴鹿アンリミテッドのサポーターの声が響く。全国社会人サッカー選手権大会(全社)、1回戦。JFL昇格を目指す鈴鹿は、しかし今季の東海リーグを2位で終えており、この全社は今年の地域CL(全国地域チャンピオンズリーグ。今年より全国地域サッカーリーグ決勝大会から名称が変更された)の出場権を獲得できるラストチャンスだ。トーナメントの準決勝まで進出すれば、ほぼ間違いなく全社枠を獲得することができるが(※)、その前に敗れてしまえば今季の戦いは終わってしまう。今大会は鈴鹿の他にも、サウルコス福井(北信越リーグ2位)、VONDS市原FC(関東リーグ2位)、高知ユナイテッドSC(四国リーグ2位)といった各地域の強豪が、この全社枠を求めて参戦している。

 あらためて全社という大会について説明しておこう。この大会は全国9地域の予選を勝ち抜いた31チーム、プラス開催県代表チームの合計32チームで争われるJFL以下のアマチュアクラブによる大会。参加する選手の大半が仕事を持っているため、最長で5日間連続のトーナメント戦という過酷なレギュレーションとなっている(ちなみに前後半40分ハーフ。80分で決着がつかなければ10分ハーフの延長戦、およびPK戦が行われる)。またこの大会は「国体のプレ大会」という位置付けもあり、今年は国体を翌年に控える愛媛県の4会場で、10月22日から26日まで試合が開催される。

 今回の全社は1回戦が行われる22日から取材することにした。この日は4会場の6つのピッチで16試合が行われ、参加32チームの半分が大会を去ることになる。私が訪れた北条スポーツセンターでは、陸上競技場と球技場の2つのピッチで、それぞれ10時、12時20分、14時40分と3試合が組まれ、12チームが入れ代わり立ち代わり登場するので何ともせわしない。この1回戦、私のお目当ては「開催県枠」で出場する、FC今治であった。

 今季の四国リーグで優勝し、昨年に続いて地域CLへの出場権を獲得している今治。いわゆる「権利持ち」の状態であるが、だからといって、この大会にいい加減な気持ちで臨むわけにはいかない。前回大会は2回戦で敗れたため、さまざまな地域のライバルたちと手合わせをする機会が失われた。それだけに「開催県代表」として臨む今大会は、手にした「権利」を有効に使いたいところである。

※全社1位〜4位までのチームで、地域CLの出場権を得ていない場合は、最大で成績上位3チームに地域CLへの出場権が与えられる。

試されるリバウンドメンタリティー

同点と逆転のゴールを挙げた今治の長尾(9)。だがこの試合は、2点目をアシストした中野を評価したい 【宇都宮徹壱】

 そんな今治の1回戦の相手は、関西リーグ3位の関大FC2008。その名のとおり08年に設立された、関西大学サッカー部の社会人登録チームである。大阪府4部リーグを振り出しに、毎年のようにカテゴリーを上げて14年より関西1部に到達。スタメンの平均年齢が20.4歳という非常に若いチームであるが、昨年は関西リーグ・カップで優勝も果たしており、決して油断はできない相手である。

 朝から降り続いていた雨が、ようやく小休止した14時40分にキックオフ。いつもの4−3−3でスタートした今治は、初戦の緊張をまったく感じさせないプレーで、正確にボールをつなぎながらチャンスをうかがう。しかし関大FCも今治のスカウティングをしていると見えて、相手のポゼッションや揺さぶりに振り回されることなく、しっかりゴール前をブロックしてカウンター狙いを徹底させていた。

 そのプランが功を奏したのは前半32分。カウンターから鎌田麓がドリブルで左サイドを疾走してクロスを供給。これを10番の松井洸叡が頭で決めて、大方の予想を覆して関大FCが先制する。ここで注目したいのが、今治のリバウンドメンタリティーだ。地域CLになれば、当然こういうシチュエーションもあるだろう。だが、この日の今治はまったく慌てていなかった。先制された8分後の40分、桑島良汰の左からのふわりとしたクロスに、長尾善公が素早く反転して右足でネットを揺らす。前半は1−1で終了。

 エンドが替わった後半、今治はゴールラッシュを見せる。後半3分、左サイドバックの中野圭がドリブル突破から低いクロスを折り返し、これを長尾が再び右足で合わせて逆転に成功。後半19分には、オーバーラップした片岡爽の右からのクロスに中野がヘディングで3点目。その5分後には、CKからまたしても中野が高い打点から決める。この日のMVPは、2ゴール1アシストの中野で決まりだろう。左サイドを駆け上がって切れ味鋭いクロスを供給するだけでなく、セットプレーで存在感を発揮する。これまで空中戦に迫力が感じられなかった今治に、178センチの中野は光明となり得るかもしれない。

1/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント