鮮やかな初陣を飾った王者・キャブズ NBA開幕、新たな物語は生まれるか
“クリーブランド史上最大の1日”
昨季優勝のセレモニーが行われたキャバリアーズの開幕戦。“クリーブランド史上最大の1日”は最高の盛り上がりを見せた 【Getty Images】
現地時間10月25日。クリーブランドのクイックン・ローンズ・アリーナで開催された昨季の優勝セレモニー中、マイクを持ったクリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)のレブロン・ジェームズはそうスピーチした。
誇大表現が飛び交うのがスポーツ界だが、この日のレブロンの言葉にうそはなかっただろう。今年6月、キャブズは前年王者ゴールデンステイト・ウォリアーズを1勝3敗からの逆転という劇的な形で撃破。クリーブランドに本拠地を置くメジャースポーツチームとして、実に52年ぶりの王座を勝ち取った。
「この勝利はあなたたちのため。あなたたちみんなのためです」
そう述べたレブロン自身はマイアミ・ヒート時代に2度の優勝を経験したが、今回の勝利に特別な意味があったことは言うまでもない。
「僕が戻ってきたのには理由がある。クリーブランドの街、オハイオ州北東部、オハイオ州すべて、そして世界中のキャブズファンに優勝をもたらすこと」
『スポーツ・イラストレイテッド』誌上でそんな手記を発表し、2014年夏に古巣キャブズに復帰してから約2年。“選ばれし男(The Chosen One)”と呼ばれた現役最強選手は、人生最大の公約を果たしてみせた。
時を同じくして、同じクリーブランドのMLBチーム、インディアンスも今年はワールドシリーズに進出。キャブズの優勝セレモニーが行われた同じ夜に、インディアンスも68年ぶりの世界一を目指し、隣接するスタジアムでシリーズ第1戦をプレーした。
人呼んで、“クリーブランド史上最大の1日”――。2つのスポーツ会場の周辺で、友人、知人でもない者同士が延々とハグやハイタッチを交わしていた。歓声と笑顔は途切れることがなかった。
地元とチームのスケールの大きな一体感こそがアメリカンスポーツの魅力だが、こんな夜は過去になかったし、これから先もあり得まい。地元最大のヒーローであるレブロンの言葉通り、10月25日が永遠に語り継がれていくことは間違いないだろう。
ほぼすべてが完璧だった開幕戦
トリプルダブルを達成したレブロンら、自慢の“ビッグスリー”が躍動 【Getty Images】
第1クォーターに28−18のランで大量リードを奪うと、一時は41−41の同点に追いつかれる場面もあったが、後半に再びリードを拡大。結局は117−88でニックスを蹴散らし、昨季王者は今季の初陣を鮮やかに飾った。
レブロンは19得点、11リバウンド、14アシストで通算43度目のトリプルダブルを達成。カイリー・アービングがゲームハイの29得点、ケビン・ラブが23得点、12リバウンドと、自慢の“ビッグスリー”がいずれも大活躍だった。
“諦めたりしない。期待を裏切るようなこともしない。お前を傷つけたりはしない”
スター選手がプレーする必要がなくなった終盤、リック・アストリーの1987年の楽曲「ギブ・ユー・アップ」がアリーナにごう音で鳴り響き、ファンはサビの歌詞を大合唱。“期待を裏切らない”。そんなフレーズこそ、ほぼすべてが完璧だったこの夜を表現しているかのようだった。
「調子は素晴らしいよ。19歳の頃よりも好調なくらいだ。当時は自分の体を理解していなかったからね。19歳でできたことは31歳になったらできないけれど、体調を整え、シーズン中もトレーニングを続け、良い状態を保てていると思う」
試合後、役目を終えたレブロンはそう語っている。近年のレブロンはシーズン中は適度にペース配分を図っているように見受けられたが、この日はNBA入り直後を思わせる強烈ダンクのオンパレード。12月30日には32歳になるが、コンディションが万全なのは事実なのだろう。
“クリーブランドで優勝する”という悲願をクリアし、肩の荷が下りたように見えたのも気のせいではないかもしれない。今後も体調さえ保てば、過去にマイケル・ジョーダン、カリーム・アブドゥル・ジャバー、ビル・ラッセルしか達成していない通算5度目のMVPも十分にレブロンの射程圏内に思えてくる。