黒子の役割を全うする小林祐希 評価は上々もトップ下定着に意欲を燃やす
小林に期待するサポーターの声
小林のオランダデビュー戦となったトゥエンテ戦。試合前から小林に対するサポーターの期待は大きかった 【Getty Images】
「(サム・)ラーションが先発復帰だ。ヤパナー(日本人)のコバヤシが先発だ」
それから彼らは「左ウイングを務めるラーションとストライカーの(レザ・)ゴーチャネジハドのコンビネーションは、トップに(ヘンク・)フェールマンを持ってくるよりいい。はて、コバヤシはその中でどんなプレーを見せてくれるんだろうか」と、サッカー談義に花を咲かせる。
コバヤシとは8月半ばにジュビロ磐田を退団し、ヘーレンフェーンの一員となった小林祐希のことだ。8月末、チームの練習を見学した時は説明を聞いても1回で理解し切れず、手探りしながら練習メニューをこなしていた小林だったが、幸い彼はブロークンながら英語ができる。きっとこの2週間でチームメートとの連係を深めたに違いない。
「僕たちは本当にコバヤシに期待しているんだ」と語るサポーターの口から出た唾がかかりそうになる。これまで出場機会がなかったのに「バモス・ア・ラ・プラヤ、オーオーオーオー」というメロディーに合わせた小林のチャントは、サポーターの間の定番ソングとなっていた。
デビュー戦の前半で見せたプレーは好評価
小林は相手の陣形をよく見ながら、ラインの間のスペースに顔を出し、シンプルに味方を使うパスを多用する。ヘーレンフェーンが1−0でリードして前半を終えると、若いジャーナリストが「コバヤシは全然シュートを打たなかったじゃないか。そんなもんなのか」と不満を口にしたので、私は「今日のヘーレンフェーンは4−3−3だが、実際にはMFの1人がシャドーストライカーとなって前へ行くので、4−2−4に近いスーパーアタッキングな布陣だ。コバヤシまで前へ出たら、中盤が(スタイン・)スハールス1人になってしまう」と説明する。
すると彼は「いや、これじゃ物足りない。われわれはコバヤシにもっと期待しているんだ」と力説する。
ハーフタイムのピッチの上では、ユトレヒトのテクニカル・ディレクター時代、高木善朗の獲得に関わったこともあるフック・ボーイがテレビ解説者として、小林をこう評していた。
「彼は英語をまずまずしゃべるけれど、ちょっとブロークンらしいね。でも、彼が左サイドに開いて、ラーションが中に入ることによって、トゥエンテのMFモコチョがポジショニングに苦しんでいる。コバヤシはしっかりフットボールの言葉を足で使って、コミュニケーションを取っているんだよ」
小林に対するフックの前半評は上々だった。
派手なデビューとはならなかったが……
後半にパフォーマンスが落ちたこともあり、派手なデビューとはならなかったが指揮官からは最大に近い賛辞が贈られた 【Getty Images】
試合は3−1でヘーレンフェーンが勝った。テレビの仕事を終えて一服ついているフックに、小林の感想を聞いてみた。
「非常にクレバーなプレーヤーだ。ビルドアップの時に開いてみたり、相手のラインの間にポジションを取って、確実なプレーをする。左足のテクニックは高いね。前半のプレーは非常に印象的だった。しかし、後半は今ひとつだった。これは彼の責任というわけではない。後半立ち上がりのヘーレンフェーンはチーム全体として良くなかった」
ユルゲン・ストレッペル監督は「ユウキは最高だったね。それは君たちも見ただろう!? 彼は言葉で苦労しているけれど、チームに早く順応した。これもクオリティーだよ」とテレビカメラに向かってしゃべっている。黒子に徹した小林にとって、派手なデビューマッチにはならなかったが、指揮官は最大に近い賛辞を贈っていた。
当の小林は地元テレビ局のインタビュー依頼を受け、日本人記者に向かって「誰か通訳してよ!」と助けを求めていた。だが、結局は1人でインタビューを受けることを決意し、たどたどしく、しかし堂々と英語で自分の思いを伝えていた。
次に日本メディアへの応対だ。小林は「自分でフィニッシュ、ラストパスというのが、俺のしたいプレーだけれど、存在価値を見せて勝利に貢献できた。前節(第4節ズウォレ戦/1−0)、自分がベンチに入ってからチームが勝ち続け、良い流れができている。このチームは絶対に、ヨーロッパリーグへの出場権を得るためにトップ3に入る。俺はそこを目標にやっていく。逃さない」と語り、スポンサールームへ上がっていった。
この時点でもう夜の11時半。小林の1日は長い。