黒子の役割を全うする小林祐希 評価は上々もトップ下定着に意欲を燃やす

中田徹

「得意なところとは違う部分が成長している」

 トゥエンテ戦こそ、途中交代させられた小林だったが、その後はフル稼働が続いている。20日のKNVBカップ1回戦のデ・フラーフスハップ戦は本人も「代えられるかと思っていた」という出来だったが、延長戦も含めて120分を戦い切った。2部のチーム相手に手こずったものの、終わってみれば5−1の快勝に小林は安堵(あんど)しつつ、こう語った。

「今日は全然ダメだった。ミスが多かったです。それでも代えられなかったのは、なぜだったんだろうと思います。守備のポジショニングとか、耐えるところを評価してもらっているのかなと感じました。120分間をフルで戦えたのは良かったですけれど、悔いばかりが残る試合でした。でも、そういうのを経験していくことが必要。とりあえず勝って良かったです」

 24日に行われた第7節、ADOデンハーグとのアウェーゲームも、小林はフル出場を果たし、チームの3−0の勝利に貢献した。アンカーをスハールスが務め、右のインサイドハーフはファン・アメルスフォールト、左のインサイドハーフに小林という中盤のメンバーは固まりつつあるが、アメルスフォールトはまるで2トップのように前線に上がっていき、小林は“第2ボランチ”として中盤のバランスを見ている。非常に地味な役割だが、小林の働きを見ている人は見ている。ADOデンハーグ戦後、スハールスに対し「コバヤシと君のコンビが良いじゃないか」という質問が投げ掛けられた。

「ADOがロングボール主体で攻めてくることは分かっていたから、僕とユウキはセカンドボールをしっかり拾いにいくことにしていた。それができたと思う。ユウキはその上、しっかりフットボールをすることで、局面を解決していくことができる」(スハールス)

 相手のシュートを防いだり、ハーフナー・マイクに入ったくさびに対し、味方と挟み込んでボールを奪うなど、守備における小林の対人能力はアップしている。あらためてトゥエンテ戦とADOデンハーグ戦の映像を見返してみると、小林がより守備に重心を置いてプレーしているのがハッキリと分かる。

「良い意味で、自分の得意としているところとは違う部分が成長している。カバーリング、セカンドボール。切り替え、体を張るところ、プレス。こういったところは絶対に大事な大舞台で生きると思いながらプレーしています」

開幕ダッシュに失敗も、順位は4位まで上昇

チームの順位も4位まで上昇し、指揮官の信頼を得た小林。次に狙うのは? 【Getty Images】

 ありがたいことに、小林の戦術説明は理解しやすい。「ヘーレンフェーンは前からプレスを掛けて相手をハメるのが得意。ただ、引いたときのブロックの作り方と寄せに曖昧なところがある」という弱点を指摘した上で自らの守備論を展開する。

「相手が5メートルボールを戻したら、こっちは5メートル(ラインを)上げなければいけない。その5メートルが大事なんです。オランダはそういう(ウイングにスピードの速い選手を置いている)国だから、サイドをやられるのは仕方ない。ただ、真ん中にスパーンと入れられてやられてしまうのは一番ないな、と。それを防ぐためにも、5メートルボールが戻ったら、こっちは5メートル上げて、相手の(前線にいる)2人をオフサイドポジションに置けば、8対10でサッカーができます。

 ですが、オランダは(オフサイドラインを上げないで)人に付くという気持ちが強い。相手を一度オフサイドポジションに置いて、そこから相手が下がってきたら、自分たちが引いて、ボールが来たら前に出ていく。その細かなところは、日本人はよくやっていますよね。こっちに来てから、それを感じました」

 このことは、われわれオランダに住む日本人がよく議論することでもあるのだが、小林の言葉は今後流用したくなるほど腑(ふ)に落ちる。
 
 ADOデンハーグのストライカー、ハーフナーはヘーレンフェーンの“スハールス、小林、ファン・アメルスフォールト”の中盤に脱帽した。

「今日は相手の中盤の方が、うちの中盤より2枚も3枚も上手だったと思います。祐希も含めてそうでしたが、結構簡単にパスを回されました。ゴールもほとんど中盤が絡んでいたと思います」(ハーフナー)

 やがて、ストレッペル監督が小林に近付いてきて、2人が満面の笑みで肩を組む。小林が試合に出るようになり、リーグ戦は7節を終えて3戦全勝、9得点に対し失点はわずか1。開幕ダッシュに失敗したチームだが、順位は4位まで上がってきた。

 黒子の小林に指揮官が満足しているのは間違いない。だが、小林にとって今の地味な役割は仮初めのものだ。「俺は虎視眈々(たんたん)とトップ下を狙っています」。小林はひそかにファン・アメルスフォールトが務めているポジションの奪還をもくろんでいる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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