別次元のステージへと踏み出したBリーグ 統合問題は一区切り、次は代表強化へ

飯田康二

いよいよ訪れた「特別な日」

Bリーグ開幕日。代々木第一体育館前は人々が列をなしていた 【加藤よしお】

 国立代々木競技場の体育館に向かうときは、渋谷駅を使うことが多い。9月22日、男子プロバスケットボールの新リーグ、Bリーグ開幕日。いつものとおりセンター街、通称「バスケットボールストリート」を抜けていく。その入口にはBリーグの開幕を告げる横断幕が掲げられており、人目を気にしながらも、とりあえずスマホで写真を撮ってみる。ワクワクと言うより、不安も含むドキドキ感を抱きながら、どれだけの人が、この横断幕に注目しているだろうかと想像をめぐらす。

 体育館の敷地に入ると思っていたより人気が少ない。18時55分予定のアルバルク東京vs.琉球ゴールデンキングスの試合開始まで、まだまだ時間が早いとはいえ、もっと賑わっているイメージを持っていたのだ。そこで、ふと思い出す。この日の会場はいつもの第二体育館ではなく、およそ3倍のキャパシティーを持つ第一体育館。その正面は渋谷側ではなく、原宿駅側になる。

 渋谷から来たことを後悔しつつ、石畳をぶらぶらと原宿側へと回った。人が──いる。開場まで1時間以上も前なのに、観客が場外のグッズ売り場に列を作り、選手のパネルやリーグの看板の前で記念撮影をしている。チケットは完売。必要以上に早く来なくてもいいはずだが、ここにいるファンたちの、これから始まる記念すべきイベントへの期待感が伝わってくる。そう、「特別な日」なのだ。

 注目しているのはファンだけではない。メディアの数もこれまでにないほどで、その受付にも長蛇の列ができていた。プレス席もこれまでとは違う場所で、導線も違う。迷いながらプレス席に着いた頃には、徐々に観客も入り始めている。観客の流れに逆らいながら、会場の様子を見ようと一回りする間に、何人かの旧知のバスケットボールファンと出会った。

 彼らと話しながら、みんな同じ思いを抱いていることを感じる。それは、バスケットボールを初めて見るかもしれない、新しいファンにどう伝わるかといった不安である。会場の観客だけでなく、フジテレビの地上波で、NHKのBSで、はたまたスポナビライブで見るであろう人たちに、バスケットボールの魅力が伝わるだろうか。期待の大きさと同じくらい、経験したことのない注目度に、従来からのバスケファンにとっては、いい試合を見せてくれるかといった不安があったのだ。

新しいファンを生み出せなかった日本バスケ界

予想以上のスケールに圧倒されたオープニングセレモニー 【加藤よしお】

 国際バスケットボール連盟(FIBA)からの資格停止処分にまで至った、これまでの日本バスケットボール界のゴタゴタの要因として、男子トップリーグの分裂があったことは否定しない。それがひとつにまとまったからこそ、この日を迎えられたのだ。ただし、それ以上に引き金になったのは、日本で開催された2006年の世界選手権だったと思っている。この大会運営の赤字問題で、日本バスケットボール協会は混迷し、内部分裂を起こした。ガバナンスどころではない状況だったのだ。

 しかし、当時を知る人間として言えば、大会を通じての総観客数は20万人を超え、これは予想以上の数字だった。大会の赤字は出たものの、それまでの積み立てと、共同事業体との折半によって消化。大会自体は日本代表が決勝トーナメント進出を逃したが、さいたまスーパーアリーナは連日バスケットボールファンで溢れていた。また、米国代表が準決勝で敗れたにもかかわらず、決勝戦は満員だった。

 では、何が問題だったのか。それは、新しいバスケットボールファンを生み出せなかったことに尽きるだろう。つまり、02年に行なわれたサッカーワールドカップの日韓同時開催を知らない人はほとんどいなかったはずだが、一方で、バスケットボール世界選手権が日本で開催されたことを知っている(バスケットボールファン以外の)人はほとんどいなかったということだ。投じた費用に見合った効果が得られなかったことで、当時の執行部は推進力を失った。

 今回はそうあってはならないという思いが強い。日本のバスケットボール界にとって、初めて、地上波キー局のフジテレビが本腰を入れてバックアップ体制を敷いてくれた。ゴールデンタイムの開幕戦生中継だけでも大ごとなのに、数日前からはバスケドラマを放映、朝の情報番組『めざましテレビ』では田臥勇太選手が「めざましじゃんけん」コーナーに登場するなど、プロモーションも本気。これまでにない周囲からの後押しを受けたからこそ、メーンとなるゲームの質、出来映えが不安だったのである。

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著者プロフィール

『月刊バスケットボール』元編集長。1968年生まれで神奈川県出身

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