代表とクラブに共通するオランダの弱点 不用意な失点が招いたユーロ予選敗退

中田徹

予選敗退もブリント監督は続投に意欲

ユーロ予選は4勝1分け5敗の4位に終わったオランダが、本大会の出場を逃した 【Getty Images】

 オランダがユーロ(欧州選手権)2016の予選で敗退した。今大会から出場国が16カ国から24カ国に増えたにもかかわらず、オランダは出場権を取りこぼしてしまったのだ。フース・ヒディンクの後を継ぎ、9月、10月の4試合で指揮を執ったデニー・ブリント監督は記者会見で「目標は達成できなかったけれど、私は長期的視野で仕事を任された。批判があるのは当然のこと。それでも、私は代表チームの監督として残る。次の目標はロシアワールドカップ(W杯)出場権獲得だ」と意欲を見せた。

 16分間に渡った記者会見の最後、『デ・テレフラーフ』紙のバレンタイン・ドリーセン記者が、平坦な声で「この4試合を指揮し終え、それでもあなたは自分自身を代表チームの監督として適任と思っているか?」と尋ねた。

「私がやりたいと言ったのではなく、KNVB(オランダサッカー協会)が私に監督になってほしいとオファーを出したんだ。それに対し、私は熟慮し、自信を持って『やる』と答えた」

 質問に答えていないブリントに対し、バレンタインは「だから、この4試合をやり終えてどう思っているかだ。あなたは成功しなかった」と畳み掛けた。

「全てが裏目に働いている時に、私は監督になった。状況が悪かった。さもなければ、私は違うやり方を採っていただろう」

 ブリントとバレンタインの攻防は淡々とした口調のまま行われた。その凄みに僕はかすかに震えた。

誰も責任をとらないKNVB

監督人事に問題を抱えるKNVBだけに、ブリント監督(中央)の去就もどうなるか分からない 【写真:ロイター/アフロ】

 記者会見が終わってからしばらく経ってから、僕はバレンタインと意見交換をした。僕の考えはこうだった。

「ヒディンクは、練習もミーティングも、ブリントにかなり裁量を与えて任せていた。最終責任者は監督のヒディンクにあったが、ブリントもアシスタントコーチとしての仕事をこなせていたとは思えない。ブリントが監督に昇格したのは間違いだった」

 バレンタインは同意してから、「お前、月曜日の『アルへメーン・ダッハブラット』に載った『腹切り』のコラムを読んだか?」と尋ねてきた。それはフーゴ・ボルストという有名コラムニストが書いた「日本がオランダと同じ状況だったらトップは腹切りする。しかし、オランダは監督もKNVBの責任者も、誰も腹を切らない」というものだった。日本に対する事実誤認があるにせよ、ボルストのKNVBに対する苛立ちと皮肉がよく伝わってくるコラムだった。バレンタインは寂しげに言った。

「ここはオランダなんだ。誰も責任をとらないんだよ……。しかもKNVBにはテクニカル・ディレクターの職がないんだ!」

 代表チームの監督人事を決めるのは、KNVBのゼネラル・ディレクター、ベルト・ファン・オーストフェーンだが、彼はあくまでアマチュアチームのGKだった過去があるだけで、そのバッググラウンドは企業人事のエキスパートである。なぜ(ハイレベルな)サッカーに精通した人物が監督人事に関わらないのか、そのことを正確に説明できる人物はオランダにいない。

 日本では「ブリント監督、続投へ」という記事が載っているが、それが近い将来現地でどうなるか分からない。オランダの監督人事は、緊迫した情勢が続きそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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