米国の救世主ワイルダー 英国の金の卵ジョシュア 「メイウェザーの後継者たち」第2回
37戦全勝(36KO)のWBC王者デオンテイ・ワイルダー(30=米国)と、17戦全KO勝ちのIBF王者アンソニー・ジョシュア(26=イギリス)。そう遠くない将来、この両雄の頂上対決がみられるかもしれない。
“ブロンズ・ボマー”の異名をとるワイルダー
久しぶりにアメリカに現れたヘビー級のスター、WBC王者ワイルダー 【(C)NAOKI FUKUDA】
ところが90年代以降はビタリ&ウラディミールのクリチコ兄弟(ウクライナ)に代表されるようにヘビー級の覇権は旧ソ連勢の手に移ってしまった。07年6月、シャノン・ブリッグスがWBO王座から陥落すると、アメリカのヘビー級はどん底時代を迎える。王座に挑んでも勝てない状態が続き、なんと世界戦20連敗という不名誉な数字を残してしまったのだ。
そんなときに現れたのがワイルダーだった。高校時代にフットボールやバスケットの選手だった長身(201センチ)の少年は、愛娘の難病を治すために一攫千金を狙って19歳でボクシングに転向。そして3年後の08年には北京オリンピックのヘビー級で銅メダルを獲得してみせた。
五輪の3カ月後にプロデビューすると1カ月に2度リングに上がるなど矢継ぎ早に試合をこなし、そのすべてを4回以内のKOで終わらせた。授かったニックネームは「ブロンズ・ボマー(銅色の爆撃機)」。67年経ったいまも不滅の世界王座25度防衛の記録を持つ「ブラウン・ボマー(褐色の爆撃機)」、前出のルイスと同郷という縁からつけられた異名だ。
タイソンを上回る高いKO率
ワイルダーの持ち味は踏み込んで打ち下ろす右ストレートで、その思い切りのよさゆえ相手はカウンターのタイミングがつかめないまま被弾してキャンバスに這うことになる。戴冠後、ワイルダーは4度の防衛をすべて規定ラウンド内で終わらせ、戦績を37戦全勝(36KO)に伸ばしている。KO率は97パーセント超だ。あのタイソンもデビューから37連勝を記録したが、KO数は33、その時点のKO率は約92パーセントだった。いかにワイルダーのKO率が高いかが分かるだろう。
V4戦で右拳と右上腕二頭筋を痛めたワイルダーは手術を受け、いまは休養状態にあるが、「来年の1月には戦線復帰する。どんどん試合をしたいんだ」と意欲をみせている。
ワイルダーとの頂上決戦が期待されるジョシュア
ワイルダーとの頂上決戦が期待されているIBF世界ヘビー級王者ジョシュア 【(C)NAOKI FUKUDA】
従兄弟の勧めで18歳のときにボクシングを始めたが、仮にほかのスポーツに進んでいたとしても大成していたのではないだろうか。競技を始めて3年後、ジョシュアはアマチュアの世界選手権に出場し、準優勝を飾る。そして12年のロンドン五輪ではスーパー・ヘビー級で金メダルを獲得して脚光を浴びた。
プロデビューは13年の10月で、初陣を147秒TKOで飾ると、以後、バッタバッタとKOの山を築いていった。峠を過ぎた相手が多かったのは事実だが、すべて3回以内で仕事を終わらせたのだから十分に評価できる。この間、当時の3団体統一王者ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)のトレーニング・キャンプに参加してスパーリング相手を務めたこともあった。15戦目でアマチュア時代に苦杯を喫したライバル、ディリアン・ホワイト(イギリス)と対戦。序盤にふらつく危ない場面もあったが持ち直し、7回TKOで斬って落とした。
その勢いのまま今年4月にはチャールズ・マーティン(米国)の持つIBF世界ヘビー級王座に挑戦。無敗のサウスポー王者に得意の右ストレートをヒットして2度のダウンを奪い、さも当然のように2回KO勝ちを収めて戴冠を果たした。
プロデビューから2年半、16戦目というスピード出世だった。2カ月半後、同じロンドン五輪出場者のドミニク・ブリージール(米国)を7回TKOで一蹴し、初防衛にも成功するとともに戦績を17戦全KO勝ちに伸ばした。
身長198センチ、リーチ208センチ、体重110キロ前後の恵まれた体からスピードに乗った左ジャブを飛ばし、鋭く踏み込んで右ストレートを打ち込む正統派の強打者で、まだ多くの伸びしろを残している。才能と経験値がバランスよく融合するのは2年後ぐらいとみられている。
ワイルダーとジョシュアは統括団体からそれぞれ指名防衛戦を義務づけられており、すぐに直接対決というわけにはいかないが、ともに勝ち進めば来年の後半期には対決機運が高まりそうだ。アメリカの救世主となった豪腕ワイルダーと、孵化したイギリスの金の卵ジョシュア。ヘビー級の頂上決戦が待ち遠しい。
Written by ボクシングライター原功
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