メダル獲得で再び強いシンクロ日本へ お家芸復活を成し得た「良い子」たち

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見事な同調性を奏でた演技

3大会ぶりのメダル獲得に抱き合って喜ぶシンクロナイズドスイミングの選手たち 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 日本のお家芸が復活した。現地時間19日に行われたリオデジャネイロ五輪のシンクロナイズドスイミングチームのフリールーティン(FR)で、日本は95.4333点をマークし、合計189.2056点で銅メダルを獲得した。

 先に演技を終えていた3位のウクライナを捉えるために必要な点数は、94.8357点以上。ひとつのミスも許されない状況で、最終8番手で登場した日本の8選手は最高の演技を披露した。FRのテーマである「天照大神(あまてらすおおみかみ)」は、繁栄の幕開けを意味するもの。低迷期を脱し、再び強いシンクロ日本を作り上げようという思いが込められていた。

 そのテーマ通り、日本の8選手は見事な同調性を奏でた。「リフトが不得意で、飛び合いをしたら負けるから、バラエティーさで勝負しようと思った」という井村雅代ヘッドコーチ(HC)は、勝つために演技終盤で多くの脚技を入れた。これには観客も大歓声を上げ、手拍子で選手たちを後押しした。ほぼノーミスで演技は終了。点数が発表されると、選手たちは大粒の涙を流して、銅メダル獲得を喜んだ。

「ロンドン五輪が終わってからは、なかなか目標が見つけられない状態でした。でも井村先生が戻ってきてくれて、もう一度、五輪のメダルを目指そうと思えたし、絶対にメダルを取りたいという気持ちが自分の中に戻ってきました。それは想像以上にしんどい道のりだったんですけど、こうして終わってみると、それがすべて今日につながっていたんですね。乗り越えてきて良かったと思います」

 チームのキャプテンを務める乾友紀子(井村シンクロクラブ)は、達成感に満ちた表情を見せた。

「日本語が通じなかった」選手たち

メダル奪還へ、日本は長くきれいに見える脚づくりに力を入れてきた 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 井村HCは、これまでの苦労が報われたかのように、胸をなで下ろしていた。

「私が目指してきた結果なので、あの子たちのすごく喜ぶ姿を見たときは、やっぱりうれしかったですね。力を出し切ったと思います」

 井村HCが復帰してから約2年半。当初は選手たちの意識の低さに驚いた。これまで自らが指導してきた選手たちとは明らかに違う。「日本語が通じなかった」と井村HCは苦笑する。

「私が怒っていても、何を怒っているのかあの子たちは分からなかった。『はい』と言っていても分かっていなくて、聞こうにもあの子たちは、私が怖くて聞けなかった。すべてがおかしかったんですよ。練習への取り組み方、気持ちの持ち方。全然アスリートではなかったんです」

 根本から変えることが難しいと悟った井村HCは、選手たちにメダルを取らせることで意識の変革を狙った。2014年アジア大会では3種目で銀メダル、翌15年の世界水泳でも4種目で銅メダルを獲得した。選手たちは、井村HCに付いていけば、五輪でもメダルを取れると考えるようになってきた。

 しかし、それはまだ甘い考えだった。井村HCは世界水泳後に、選手たちを突き放した。

「私に付いてくるんじゃなくて、あなたたちが何をするかが大事なの。私は本番で泳げない。あなたたちが私の指導の下で、どれだけ自分を追い込み、酷使するかでメダルの位置まで行ける。私はどこまで行けばメダルを取れるのか知っている。あなたたちがもっと進化したら、私はもっと前を知っているから教えてあげる。私を抜きなさい」

 1日12時間にも及ぶ練習はし烈を極めた。吉田胡桃(井村シンクロクラブ)は、最もつらいトレーニングとして「ハイポ」を挙げる。ハイポというのは、100メートルから150メートルほど潜水で泳ぎ、息が上がった状態のまま通しの演技をして、心肺機能を高めるトレーニング。それを休憩なしで長いときは1時間半ほど続けるのだという。吉田は「二度とやりたくない」と、苦笑いを浮かべる。

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