メダル獲得で再び強いシンクロ日本へ お家芸復活を成し得た「良い子」たち
井村HC「あの子たちは本当に良い子」
決勝の大舞台でも息の合った演技を披露した 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】
演技前、井村HCはこう言って選手を送り出した。
「私は9回の五輪の中で、最も中身の濃い、ハードな練習をしてきた。だからたった1回、できないはずはない。どんなことが起こっても、それに耐え得るだけの練習はしてきた。そしてここまでやったのだから、終わった後にやり残しがあるような演技だけはするな。この1回にかけて泳いできなさい。攻めろ」
その言葉通り、選手たちはプレッシャーに負けず、攻めの演技を見せた。これまで93〜94点台でとどまっていたスコアは、この大舞台で95.4333点まで伸びた。まさに攻めた結果と言える。
吉田は、メダルを首にかけた気持ちをこう語った。
「今までつらいことの方が多かったし、練習もしんどかったけど、先生に付いていって、それを乗り越えたから、こういううれしい結果が待っているんだなと思いましたね」
どうやら選手たちからは、最後まで「井村HCに付いていく」という気持ちが抜けてはいなかったようだ。井村HCは目を細めながらも、ため息をつく。
「残念ながら、あの子たちが私を抜くことはなかったですね。あの子たちは本当に良い子でかわいい子なんですよ。でも、それでは大勝負に勝てない。私にボロクソに言われたときくらい腹を立てなさいよ、と言いたいですね」
ただ、そんな「良い子」たちが、お家芸の復活を成し遂げたのだ。そして、厳しい言葉を投げかける井村HCのまなざしが、選手たちへの慈愛に満ちていたのもまた印象的だった。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)