“みんなの夢”をかなえた3人の天才 卓球団体「いつか男子も」想い実る

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幾度も苦杯をなめたドイツに雪辱

歴史を変えた3人の卓球男子。左から丹羽孝希、吉村真晴、水谷隼 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

 その瞬間、水谷隼(ビーコン・ラボ)はコートに横たわり、腕を突き上げた。ベンチで戦況を見守っていた丹羽孝希(明治大)と吉村真晴(名古屋ダイハツ)、そして倉嶋洋介監督も肩を組んで、喜びを分かち合った。待ちに待った瞬間がようやく訪れたのだ。

 日本時間8月16日に行われたリオデジャネイロ五輪の卓球男子団体準決勝で、日本はドイツを3−1で破り、初の決勝進出を果たした。日本はこれで銀メダル以上を確定させ、決勝では中国と対戦することになった。

 4日前のシングルスで水谷が銅メダルを獲得したことに続き、再び日本卓球界に新たな歴史が刻まれた。準決勝で対戦したドイツは2008年の北京五輪で敗れ、世界選手権でも幾度となく苦杯をなめた相手。メダル獲得への道は険しいように思われた。

 実際、この日も1番手の吉村が、世界ランク5位のドミトリー・オフチャロフにストレート負けを喫し、嫌なムードが漂った。しかし、それをエースの水谷が断ち切った。過去の国際大会で1勝15敗と相性の悪いティム・ボルをまったく問題にせず、ストレート勝ちを収める。すると続くダブルスで丹羽と吉村が、「今までの試合で一番の出来」と倉嶋監督に言わしめるプレーで3−1と勝利し、決勝進出に王手をかけた。

 4番手で登場したのが水谷だ。銅メダル獲得で選手としてのレベルを一段上げたように思える今の水谷にとって、相手のバスティアン・シュテーガーは敵にさえならなかった。危なげない戦いぶりでストレート勝ちし、メダル獲得を確定させた。

「すごくホッとしています。目標はメダルでしたけど、壁はすごく高くて、『本当にできるのかな?』という不安の中で毎日を過ごしていました。そうした状況でも周りは『メダル、メダル』と煽ってくる。その山を越えられて本当に良かったと思っています」

 水谷は喜びよりも、むしろ安堵(あんど)した表情で、今の気持ちを語った。

水谷が抱き続けてきた思い

「男子にももっともっと注目してほしい」という想いが水谷を掻き立てた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 4年前のロンドン五輪で女子団体が銀メダルを獲得した一方、男子は準々決勝で香港に敗れた。当時のチームには水谷と丹羽がいて、倉嶋監督もコーチとして帯同。共に悔しさを味わった。

 福原愛(ANA)や石川佳純(全農)といったスター選手がいて、結果も残している女子と比べて、これまで男子はなかなか光が当たらなかった。水谷は「いつか男子も、という気持ちはすごく強かった。女子だけではなく、男子にももっともっと注目してほしい。それは10年くらい前からずっと思っていた」と振り返る。

 そのためには、国際大会での結果が必要だった。しかし、当の水谷を含めて、五輪や世界選手権でメダルを獲得する選手はなかなか現れなかった。風向きが変わったのは、今年2月から3月にかけて行われた世界選手権だった。日本の男子団体は39年ぶりに決勝に進出。中国には敗れたものの、世界の舞台で堂々たる戦いを披露し、銀メダルを獲得したのだ。

「団体でもメダルを!」。水谷がシングルスでは日本卓球史上初となる銅メダルを獲得したこともあり、周囲の期待が高まる中、日本の歩みは決して楽ではなかった。初戦のポーランド戦は、ダブルスと丹羽が敗れ、3−2と薄氷を踏む勝利。倉嶋監督は「なんとなくポーランドには勝てるだろうとふんわりとした雰囲気で入ってしまった」と語り、先行きに不安をのぞかせた。

 ロンドン五輪のリベンジを懸けた香港戦も、1番手の丹羽が敗れ、ビハインドを負ってしまう。続く水谷が3−2でなんとか勝利し、ダブルスと吉村も続いて準決勝進出を決めたものの、決して盤石な戦いぶりだったわけではない。

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