イチローとカブス監督のユニークな関係性 シカゴでの3000安打達成は微妙に…

丹羽政善

2009年のオールスターでの話

日本時間3日、敵地カブスファンの声援に送られながらチャンスに代打で登場したイチロー。空振り三振に終わり、7月29日以来9打数連続無安打となった 【写真は共同】

 そのとき、監督室のドアは開け放たれていた。机の上には食べかけの食事と赤ワイン。その状態なら、すぐに帰ってくるだろうとドアの外で待っていると、案の定、戻ってくるまで時間はかからなかった。

「どうした?」とジョー・マッドン監督(当時レイズ監督/現カブス監督)。

 今さっき、イチローがマッドン監督からワインをごちそうされた、という話をしたので…と話し始めると、マッドン監督は、合点がいった。 

「そうなんだよ」

 話がそのことだと分かると、「入れ、入れ」。筆者を監督室に招き入れてくれた。2009年のオールスターゲームの試合後の話である。

ワインのごちそうの代わりに――

 先日、マッドン監督がシカゴの地元メディアから、イチローのことを聞かれると、2009年のオールスターゲームの前日、小さなイタリアンレストランで一緒になったエピソードを明かしたという。それは、ワインをごちそうする代わりに、翌日、初球をスタンドに運んでくれ、とお願いした――という話だが、もう少し詳しく紹介すると、こういうことである。

 あの試合でア・リーグのリードオフマンを務めたイチロー(当時マリナーズ)は、ナ・リーグ先発ティム・リンスカム(当時ジャイアンツ)の初球を狙いすましたように強振すると、打球は惜しくも右に切れていったが、明らかに本塁打を狙ったスイングだった。

 試合後、イチロー自身がこう明かしている。

「昨日、実はマッドン監督とレストランで偶然会ったんですよ。で、ワインをごちそうしてくれて、その代わりに、『ファーストピッチ、ホームランを打ってくれ』みたいなことを言われたので、そういう理由もあって、狙ったんです」

 そのことを聞いてからマッドン監督の部屋へ。

 ワインでのどを潤してから、監督は、こう教えてくれた。

「イチローにレストランで会ってね、ワインをプレゼントしたんだ。するとイチローが、『お礼にヒットを打ちます』って言ったんだ」

 ヒット?

「そう。だからこっちからお願いしたんだ。『どうせなら、初球にホームランでも打ってくれないか』ってね」

 その約束通り、イチローは初球をフルスイング。

「惜しかったな。正直、行ったかと思ったけどな」

 その後、マッドン監督は、「イチローは実にユニークな選手だ」とも話したが、端から見れば、レストランでそんな約束をする2人こそユニークで、揃ってエンターテイナーである。おそらく2人の相性はいい。マッドン監督とイチローの野球は、ともにクリエイティブ。2人が一緒のチームになると、ああいうエピソードが生まれるのである。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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