政治に翻弄されたウクライナ代表FW ユーロ本大会で英雄に返り咲けるか
ウクライナの英雄から裏切り者へ
ウクライナ代表のイェウヘン・セレズニョフ(左端)はファンから最も愛される選手の1人だったが…… 【Getty Images】
所属していたドニプロでも14−15シーズンは下馬評を覆してヨーロッパリーグ準優勝を果たすなど、15年はセレズニョフにとって特別な1年となった。30歳となり、脂の乗り切った長身ストライカーは、キャリア最高の状態で新年を迎えた。ユーロ本大会ではウクライナの主力として活躍する――そう国民から期待を寄せられた。ウクライナとポーランドが共催した前回大会では、代表メンバーに選ばれるも出番がなかったため、本人も今大会にかける思いはひとしおだった。
だが今年の2月、わずか数日で状況が一変する。本人も、自身の決断が波紋を呼ぶことは予測できていたはずだ。それでも覚悟を決めて、新たな挑戦に踏み出した。ロシア・プレミアリーグのクバン・クラスノダールと契約を結んだのだ。
チームメートやファンからの痛烈なバッシング
ロシアのクバン・クラスノダールと契約したセレズニョフ(右)は痛烈なバッシングを受けることになった 【Getty Images】
ディナモ・キエフの英雄で、ウクライナ代表監督も務めたことのあるヨーゼフ・サボに至っては、他の代表選手たちに注意を喚起した。「全てのウクライナ人選手にお願いしたい。敵に仕えないでくれ! 誘いを断れ。私なら絶対に断る。敵のために働くのは間違っている。セレズニョフがクバンに移籍した最大の理由は金銭だろう。彼を批判するわけではないが、もし私が彼の立場なら、ロシアへの移籍は絶対に断ったはずだ。ウクライナが問題を抱えていることは百も承知だ。しかし、移籍するのならロシアではなく、他国のクラブを見つけるべきだ」
ファンからは、より過激な発言が飛び出した。ネット上には、こんな書き込みさえ見られた。
「売国奴め! セレズニョフ、お前は自分のことしか考えないのか。戦場で、プーチンの手下から弾丸の雨を受けている、われわれの同胞のことを考えたか? そして、彼らの家族や子供たちのことを。どうせ、お前は考えないだろう。お前はあいつらのリーグへ移り、あいつらを楽しませるのだからな。だが、オレグ・グセフを見てみろ。彼はクバンから2倍の額を提示されても魂を売らなかった。グセフはわれわれの元に残った。彼こそ男であり、愛国者だ。それに比べてお前は単なるロクデナシだ」