名門の1部復帰に貢献した日本人フィジオ 悔しい思いも糧に来季はエールディビジで

中田徹

名門スパルタが2部優勝、エールディビジの舞台に

スパルタは2部優勝を果たし、6シーズンぶりの1部復帰を果たした。優勝を決めた直後。(左から)フィジオのロヒール・フーク、コーチのマイケル・ライジハー、相良 【相良浩平】

 スパルタは1888年に創られた、オランダ最古のプロサッカークラブだ。かつてはルイ・ファン・ハール(マンチェスター・ユナイテッド監督)、ダニー・ブリント(オランダ代表監督)らがプレーしたこともある。近年は育成に力を入れ、ケビン・ストロートマン(ローマ)、イェトロ・ウィレムス(PSV)といったタレントをビッククラブに供給している。

 そんなオランダ屈指の名門スパルタがオランダ2部リーグで優勝し、6シーズンぶりにエールディビジの舞台に戻ってくることになった。優勝を決めたのは4月11日のヨング・アヤックス(アヤックスのリザーブチーム)戦。1−1で迎えた84分、35歳のベテランDFミシェル・ブロイヤーが勝ち越しゴールを決めると、その2分後にはスーパーサブのセルジル・マクドナルドがダメ押しゴールを決めて、スパルタが3−1で勝った。

“ヘット・カステール(城)”という名を持つスタジアムのテラスにチームスタッフと選手が並び、クラブのアイコンであるブリントからブロイヤーに栄光の優勝盾が手渡されると、彼らは栄華に酔いしれた。その中に、日本人フィジオセラピストの相良浩平がいた。

「めちゃくちゃ気持ちよかったです。一生で一度あるかどうかのことでした。優勝が決まった瞬間から夢のような世界でしたね。ピッチ、ギリギリのところにスタッフが全員固まって試合終了を待って、優勝が決まってピッチの上でワーっとなって、それからスタジアムの“城(バックスタンドにある建物)”に行って優勝盾をもらって、僕も掲げました。それから朝3時半までみんなと写真を撮ったりして騒いでました」

独自のコンディショニングプログラムを作る指揮官

『サッカーのピリオダイゼーション』の知識をもとに、独自のプログラムを作っているパストール監督 【Getty Images】

 相良は『サッカーのピリオダイゼーション』のスペシャリストである。このメソッドは、コンディショニング・トレーニングを、ボールを使った戦術トレーニングに置き換えて、2週間ごとに「強化」→「維持」→「休息」と回していき、シーズン終盤に向けてコンディションをピークに持っていくものである。このメソッドを相良はアマチュアの名門アイセルメール・フォーヘルスで5年間実践した。そして今季からプロクラブのフィジオセラピストとしてチャレンジすることにした。

 スパルタの監督アレックス・パストールもまた、『サッカーのピリオダイゼーション』の知識に長けている指導者だった。

「パストール監督は勉強熱心で知識が豊富な指導者で、インテリジェンスが高い。やり方がすごく面白いですね。『インディビジュアル・ピリオダイゼーション(個別の選手に合わせたトレーニング)』も、もちろんやっていて、回復が遅い選手に対しては他のグループとは違うアプローチをしたり、休みを余計に設けたりしています。スパルタは育成から上がってくる選手が多いので、そういう選手に対しては負荷を調整している。もちろん僕らの方から監督に言うこともあるんですけれど、よく話を聞いてくれます。けがが少ないし、チームパフォーマンスもいいですから、ピリオダイゼーションはうまくいっていると思います」

 オランダで『サッカーのピリオダイゼーション』の第一人者は、相良の師匠でもあるレイモンド・フェルハイエンだが、パストール監督は独自のプログラムを作っている。

「レイモンドは試合をした翌日をリカバリー、その次の日をオフにしています。これをレイモンドは『原則1』と呼んでます。一方、パストール監督は試合後の原則はあまりないですが、試合をする日から逆算してトレーニング・メニューを考えています。パストール監督にとって大事なのは試合前2日間の練習だから、試合3日前をオフにして選手をフレッシュな状態にするという考えですね。だから、今季のスパルタは『オフ』→『練習』→『練習』→『試合』というリズムを作っていました」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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