名門の1部復帰に貢献した日本人フィジオ 悔しい思いも糧に来季はエールディビジで

中田徹

週2回のオフが優勝のキーポイント

35歳の大ベテラン、ミシェル・ブロイヤー(左)も1シーズンを完走しきった 【Getty Images】

 また、今季のスパルタは週に2日、しっかりオフを取ったという。

「普通は週に1回オフを入れるじゃないですか。でもパストール監督は週に2回オフを入れているので、選手にとっても気分がいい。例えばオフの前のトレーニングはコンディショニング・トレーニングになって、結構厳しいトレーニングになるんですが、次の日にオフがあるとなると選手のモチベーションが上がりますし、オフの次の日のトレーニングも質が高いので。それがうまくいっている。

 僕にとっては新しい発見でした。オフを週2回キッチリ取ったということは、練習の質を高めるということとけが人を少なくしたという意味で、今回の優勝のキーポイントになったと思います」

 シーズンが大詰めを迎えても、スパルタの負傷欠場者は32人中わずか2人しかいなかった。シーズン通じて、今季のスパルタは負傷者を1人から2人に抑えることができたという。この結果、スパルタは常に質の高い練習ができ、ほぼ毎試合、最高の11人をピッチに送り出すことができたのだ。

『チーム・ピリオダイゼーション』はパストール監督のプランニングで実践されるが、『インディビジュアル・ピリオダイゼーション』には相良も関わった。

「ヨング・アヤックス戦でゴールを決めたマクドナルドは、パストール監督がウインターブレーク明けに『お前は試合のラスト15分、20分から出てもらう。だからトレーニングの量も減らすよ』と宣言しました。 マクドナルドは爆発的な瞬発力を持った選手で疲労の回復力が遅く、しかも31歳になっていた。体に痛みがあることを僕は聞いていた。そこで、もう1人のフィジオ、ロヒール・フークと話し合って、『マクドナルドは練習の負荷の制限をすることが必要だ』という結論を出した。

 このことをメディカルスタッフの総意としてロヒールがパストール監督に伝え、これに納得した監督がマクドナルドに今季残りの方針を言い渡した。僕もマクドナルドにはなぜ痛みが出るのか言っていたので、監督が言ってきたことに対しても納得しやすかったと思います。マクドナルドは毎試合のように途中から出てきて、重要な役割を果たしました。だから、彼に合った良い方法がとれたと思っています」

 ヨング・アヤックスで決勝ゴールを決めたミシェル・ブロイヤーは、35歳という大ベテランだが、見事に1シーズンを完走しきった。

「彼は、いかにけがをしないでプレーするかというのを自分で理解している。痛みがなくても、少しでも体の調子が悪いと自分から言ってくる選手だから、自身の体のことをよく理解している。彼に関しては、マクドナルドのようにシーズンを通じてトレーニングの量を減らすことはしませんでしたが、ポイントポイントで『今日はこのトレーニングをスキップするよ』といった感じで調整していました。

 ここまで彼はよくけがをせずに、やってこられたなと感心しています。ブロイヤーは『35歳の選手がああしてけがをせず試合に出続けることができるのは、しっかり体のケアをしているからなんだな』と、周りの選手に良い影響を与えることができる選手でしたね」

「今季はやりたかったことの3割しかできなかった」

優勝という結果を出した相良だが、「もっとチームに貢献したいという思いが残るシーズンでした」と悔しさものぞかせる 【中田徹】

 はたから見ると、スパルタは今季優勝したのだから、相良は加入1年目で結果を出したと言えようものだが、本人は全くそう思っていない。

「アイセルメール・フォーヘルスでは監督、アシスタントコーチ、キーパーコーチ、そしてフィジオとスタッフの人数自体が少なかったんですけれど、スパルタだとスタッフが何人いるか分からないぐらい。僕はその中の1人です。正直言って、アイセルメール・フォーヘルスでやっていた時ほどの影響力は、僕にはなかったですね。だから胸を張って、『自分がいたから優勝できた』とは到底言えないです。むしろ、もっとチームに貢献したいという思いが残るシーズンでした」

 それでもシーズンを通じてコンスタントに、少ない負傷者に抑えることができたのは、素晴らしい成果ではないだろうか。

「理想を言えばゼロが良いんですけれど、(シーズン終盤時に2人の負傷者というのは)悪い数字ではなかったと思います。それでも後から考えると、『けがをした2人もこうしたら防げたんじゃないか』というのが出てきて、やっぱり『やったぞ!』とは感じられないんですよね。僕には全選手が100%フィットした状態で、全部のトレーニングと全部の試合に能力を発揮するという理想がある。そこに近づけたら、自分が『優勝に貢献したぞ』と言えるんじゃないですかね」

 今回の優勝の嬉しさは100どころか120もある。しかし仕事の満足度としては、相良はまだまだ物足りなさを感じているのだ。

「1年目としては、すごくいろいろなことをさせてもらったと思うんですけれど、今季はやりたかったことの3割しかできなかった。そういう悔しい部分があるのは否めないです。僕はクラブのビジョンに合わせて、自分の知識を使っていくだけ。だけど、僕がああした方がいいと思っても、それをクラブやチームに100%反映することができなかった。パストール監督と対等にディスカッションできるぐらいの信頼を得たいです。今季の僕はそこまで達していませんでした」

 2008−09シーズンに、本田圭佑が主将としてVVVをオランダ2部リーグ優勝に導いた。相良もまた、優勝したチームのスタッフとして歴史に名を刻んだ。来季はいよいよエールディビジが相良の活躍の舞台となる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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