日本ハム・吉井コーチの育成術 目指す理想は“選手のための図書館”
アリゾナ・ピオリアでのキャンプで練習を見守る吉井コーチ(写真奥) 【写真は共同】
このオフは球界全体に波及するスキャンダラスな話題で持ちきりになってしまっただけに、そのダーティなイメージを少しでも解消するためにも、ファンを熱狂させるようなグラウンド上での選手たちのパフォーマンスに期待したいところだ。
個人的な興味で恐縮ではあるが、今年は北海道日本ハムに意識が向かっている。同チームが2月に2週間のアリゾナキャンプを実施した際、これまでプロ野球といえば元メジャー選手や米国に自主トレに来る選手以外、取材経験がほぼ皆無だった筆者が、初めてチーム全体の取材をさせてもらったためだ。
短期間の取材だったとはいえ、今では多くの主力選手の顔と名前が一致するだけでなく、彼らの言動ぶりも理解することができた。そうした背景を考えながら各選手のシーズンの過ごし方に興味を注げるのはスポーツライターの醍醐味なのだろう。
中でも特別な思いで注目している人物がいる。4年ぶりにチームに復帰した吉井理人投手コーチだ。実は彼の現役メジャー時代に取材経験もあるだけでなく、引退後グラウンドを離れても音信が続いていた間柄で、これまでも様々な話を聞かせてもらった。そんな彼が目指すコーチ像を聞いていればこそ、大谷翔平投手をはじめとする才能あふれる若き投手陣にどんなインパクトをもたらすのか楽しみで仕方がないのだ。
青空ミーティングで選手と対話
そもそも吉井コーチが大学院入学を決断したのは理由があったからだ。少しでも自分がコーチとしての理想像に近づくためだった。最近の吉井コーチの言葉を借りれば、こんな表現になる。
“選手たちにとって図書館みたいな存在になりたい”
吉井コーチは現役引退と同時に08年日本ハムの投手コーチに就任した。その時点から彼にはしっかりした信念があった。各投手の自主性を重んじることだ。
「明らかに間違えている部分があったら指摘するが、それ以外は彼らのやりたいようにできるよう手伝いたい」
2月のアリゾナキャンプで目撃したある光景が今も印象に残っている。紅白戦が終了した後、登板した投手全員をグラウンドに集め、芝の上に座りながら青空ミーティングを行っていた。吉井コーチはノート片手に選手たちと対話をしていた。
後で確認したところ、キャンプ中は毎日、投手からその日の課題を聞きノートに書き出し(吉井コーチはそれを“取材”と称していた)、それを各人と練習、試合後に確認作業を行っていた。青空ミーティングもその一貫だった。
つまり吉井流コーチ術とは、選手自ら自分の課題を考えさせ、さらにそれを克服していくにはどう対処すべきかをも一方的に指導するのでなく、話し合いながら選手にその方向性を導かせるというものだ。まさに学生が勉強に困った時に資料を集めるため図書館を利用するように、コーチは選手が自ら成長するため利用する存在であるべきだと考えているのだ。