なでしこの連係力を阻んだ1つの誤算 初戦で波に乗れず、五輪出場を逃す

江橋よしのり

試合を前に五輪出場がついえる

予選敗退の知らせを聞き、なでしこジャパンの選手たちはベトナム戦に臨んだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 午後6時26分、わずか451人の観客に見守られたヤンマースタジアム長居で、なでしこジャパンの運命を決める笛が鳴った。リオデジャネイロ五輪アジア最終予選の第4戦で、中国が韓国との試合を1−0で制し、勝ち点を10に伸ばした。この瞬間、前年ワールドカップ(W杯)準優勝、FIFAランク4位のなでしこジャパンの予選敗退が決まり、4大会連続の五輪出場を逃した。

 試合が終わってすぐ、隣のキンチョウスタジアムまで歩いて移動する。ほんの少し前まで、かすかな希望のように残っていた空の明るみは消え、夜が訪れていた。これからなでしこジャパンがベトナムとの試合を行う、キンチョウスタジアムの階段を上る。選手たちはまだ姿を見せていないが、すでにピッチは煌煌と照らされ、ゴール裏のサポーターは大声で選手を鼓舞するいつもの歌を歌っていた。

 しばらくすると、選手たちはピッチに飛び出してきて一列に並び、観客席に向かって深々とおじぎをした。ウォーミングアップを始めた彼女たちの表情は、思いのほか明るかった。

「今日は誰かのためじゃなく、まず自分たちのために、大好きなサッカーをやろう」(宮間あや)

 予選敗退の悲しい知らせをつい直前に知った選手たちは、そんな言葉を掛けあって試合に臨んだのだという。これから始まる新しい試合、新しい時代の女子サッカーに、悔しさや無念さを持ち込みたくなかったのだろう。

ベトナム戦は大勝したが……

試合後、場内からは選手たちに温かい拍手が送られた 【写真は共同】

 試合は6−1で、なでしこジャパンがベトナムに勝利した。前半39分に岩渕真奈のゴールで先制すると、ベンチで見守る宮間が両手を挙げて喜ぶ。その様子は場内の大型スクリーンにも映し出された。PKで追いつかれた後、大野忍の追加点で再びリードして後半を迎えると、なでしこは残り10分ほどで立て続けに得点を披露した。途中出場の大儀見優季が締めくくりの6点目をたたき込み、試合は終わった。場内を包んだ温かい拍手は、「これからも女子サッカーを見捨てない」という観客から選手たちへのメッセージだった。

 スタジアムに集まった人たちの温かいサポートは、選手たちにとって心強かっただろう。それでも、やはり失ったものは大きい。これから夏にかけて、さまざまなスポーツがメディアを賑わす間、五輪関連の報道からなでしこジャパンの話題は途切れる。新体制で再スタートを切れば、おそらく何人かの選手はもうこのチームにいないだろう。

 そうして、国民的な知名度を得た選手たちが去っていき、気がつけば「なでしこ、知らない選手ばかりになっちゃった」と感じる人が多くなる。連続出場が途絶えた影響は、今ではなく、後になって実感するものだ。なでしこジャパンが再び世間の脚光を浴びる時、メンバーは大きく入れ替わっているかもしれない。新しいなでしこの主役たちは、世の中にどんな価値を示せるだろうか。

 明るく、楽しい雰囲気の試合が終わると、佐々木則夫監督と選手たちは一転して予選敗退を重く受け止め、悔しさをにじませながら取材に応じた。ここからは、当事者たちの言葉をひもときながら、今大会の敗因を探っていきたい。まずは佐々木監督が、大会前の準備について反省を口にした。

「リオ行きが閉ざされた要因は、初戦(オーストラリア戦)に敗れ、波に乗れなかったことに尽きる。大会に入る準備の段階で、実戦的な経験がもっと必要だった。なでしこは(オフシーズンからインシーズンへの)移行期にあったので、ゲームができる状態にコンディションを上げるにとどめて大会に入ったが、オーストラリアや中国は実戦を多く積んできていた」

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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