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Vリーグ制覇へ、木村沙織に備わった覚悟
ファイナル6で見せたチームを引っ張る姿

負けられない試合で、笑顔が弾ける

木村沙織の所属する東レがVリーグ・ファイナル6を勝ち抜き、ファイナル3進出を決めた
木村沙織の所属する東レがVリーグ・ファイナル6を勝ち抜き、ファイナル3進出を決めた【坂本清】

 ズドンと音を立て、スパイクがコートに突き刺さる。


 レフトからインナーへ、鋭角に放たれたスパイクが決まると、厳しい表情から一転、両手を小刻みにたたき、ピョンピョンと跳び上がる木村沙織の笑顔が弾けた。


「絶対に(勝って)3ポイントを取りたかったし、自分自身も調子が良かった。バックアタックが少ない分、前衛にいる時は(トスを自分に)『持って来い』という気持ちが(セッターに)伝わっていたと思います」


 2月28日に行われたV・プレミアリーグのファイナル6で、東レアローズはトヨタ車体クインシーズを3−1で下した。結果的に、その後に行われた日立リヴァーレ対岡山シーガルズ戦は日立が3−1で勝利したため、東レはファイナル3を戦うことになった。東レのファイナル進出は3月6日に行われるファイナル3で勝たなければ決まらない。ましてやファイナル3で対戦するのは、ここ数年東レはやや分が悪い久光製薬スプリングス。厳しい戦いが続くことに変わりはない。


 だからこそ、と言うべきか。久しぶりに一戦必勝のピリピリとした独特の緊張感が漂う舞台で戦える喜びが、木村の笑顔を輝かせていた。

連戦が続き、気持ちを切り替えられない日々

 昨シーズンの同じ頃、ファイナル6を戦う木村に笑顔はなかった。優勝候補と言われながらもなかなか勝つことができず、出し切ったと胸を張れる試合もない。


「全日本でも東レでも、自分がいるから勝てないのではないかと思うこともありました」


 2014年に2シーズンプレーしたトルコから日本に戻った理由の1つが、リオデジャネイロ五輪を万全な状態で迎えるため。だが現実は、東レでの復帰1年目となった昨シーズンは6位。加えて、昨シーズンの最も大きな目標であり、木村自身も何度も口にしてきた「リオ(五輪出場の)切符を取ること」はワールドカップ(W杯)では5位に終わり、かなわなかった。


 決して大げさではなく、すべての責任を1人で背負い込んでいた。


 とはいえ、Vリーグが終われば全日本でのシーズンが始まるように、W杯を終えた直後に、またVリーグが始まる。懸けていた思いが強かった分、完全に気持ちを切り替えることができたわけではなく、代表から離れることが頭をよぎったほど。


 昨年末、15年最後の公式戦として臨んだ天皇杯・皇后杯全日本バレーボール選手権を終えた後の記者会見の席上で、「五輪イヤーである16年の抱負」を求められた際も「先のことは分からない」「Vリーグで頑張りたい」と「五輪」につながる言葉は濁したままだった。

ディクソンのけがに奮起し、意識が変化

ディクソンのけがに若手選手たちが動揺するなか、木村沙織の意識に変化が生まれた
ディクソンのけがに若手選手たちが動揺するなか、木村沙織の意識に変化が生まれた【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 東レは皇后杯で頂点に立つことはできなかったが、今季はVリーグで常に上位を走り続けてきた。木村、迫田さおり、高田ありさといった経験豊富な3人のウイングスパイカーの存在に加えて、今季から加入した米国代表のミドルブロッカー、テトリ・ディクソンの攻守に渡る活躍で開幕から勝利を重ね、早々にファイナル6への進出を決めた。


 皇后杯を終え、1月にはフルセットの末にようやく久光製薬に勝利。レギュラーラウンドの1位をほぼ確定させた。ファイナル6、ファイナルへ向け、盤石の体制が築かれていくと思われた矢先、アクシデントに見舞われた。


 レギュラーラウンドの終盤戦、1月23日に秋田で上尾メディックスと対戦した際、ディクソンが左膝前十字靭帯を損傷。すぐさま手術、リハビリをしなければならず、帰国を余儀なくされた。


 これからどうなるのか。ディクソンがいなくて大丈夫なのか。チームには少なからずの動揺が走り、木村も大きなショックを受けたと言う。


「五輪の年で、米国代表では中心のミドルブロッカー。けがをしてしまったことがすごく残念だし、何より、もっともっと一緒にプレーがしたかったです」


 米国はすでに五輪出場を決めているが、左膝前十字靭帯損傷の手術とリハビリを経て、どれほどの状態でディクソンがコートに立てるのかは分からない。それでも不安を感じさせず、笑顔で「優勝してね」と残したディクソンの姿はチームにとって大きな勇気を与えた。それだけでなく、木村に「覚悟」が備わったと福田康弘監督が言う。


「ずっと中心でやってきた選手ですから、今までも『覚悟』や『責任』を背負って戦っていました。でもテトリ(・ディクソン)がけがをして、若い選手が動揺しているのが分かったので彼女たちに『お前のやってきたことを見せてやってほしい』と伝えたんです。ああする、こうすると口に出すわけではありませんが、セッターや、まだ経験の少ない若い選手たちへの声がけなど、こちらが望んだ以上の姿勢を見せてくれた。試合前の準備、この1本に懸ける姿、若い選手にとってこれ以上ない財産になっているのは間違いありません」


 代表ではキャプテンを務めているが、木村は本来、先頭に立って引っ張ることや輪の中心で話すことを得意とするタイプではない。だが、突然のアクシデントに揺れる若手選手を、チームをまとめなければならない。意識に、変化が生まれた。


「常に『楽しんでバレーをやろう』という気持ちはあるし、そこにプラスして、勝負なので、必ず勝ち負けがある。だからそこで東レらしい戦いをして勝ちにつなげたいと思うし、しっかりチームを引っ張っていこうという気持ちが強くなりました」

田中夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当