Vリーグ制覇へ、木村沙織に備わった覚悟 ファイナル6で見せたチームを引っ張る姿

田中夕子

姉の変化を感じた妹の美里

姉・沙織(右)の変化を妹の美里(8番)も強く感じていた 【坂本清】

 これまで以上に周囲に気を配り、目を配る姿は共にプレーする選手たちにも伝わる。中でも、その変化を強く感じているのが、実妹で今季リベロとしてレギュラーを獲得した木村美里だ。

 他チームのリベロに比べ「自分には正確な技術はない」と言う美里は、その分、チームと自分を鼓舞すべく、ジャッジの際や、得点が入った場面で大きな声を出すことを習慣としてきた。だがファイナル6のある試合で、相手チームの監督からその声に「うるさい!」と怒りの矛先が向けられた。審判からも注意を受け、気にしないようにと思っても気持ちが沈みかけていることを美里の表情から沙織が見抜いた。

「(注意を受けた2セット目を終えて)3セット目が始まる前に『ミサ、行くよ!』と沙織ちゃんが奮い立たせてくれた。その言葉と表情で、もう一度気持ちを強く持つことができた。沙織ちゃんに、助けてもらいました」

 5歳違いの2人がこれほど長く一緒にコートに立つのは、今季が初めて。「チームで一番美里が成長した」と言う姉に向けて、妹として、1人のチームメートとして美里が願うこと。

「私はまだまだヘタすぎて『勝たせたい』なんて言えないけれど、でも最後に勝って、良い形で、全日本に送り出してあげたいです」

木村「“強い東レアローズ”としての記憶を残したい」

 ファイナル3とファイナル。今季の戦いは最大でも残り2戦しかない。そしてその2試合ですべての力を結集させ、「東レらしく勝ちたい」と木村は言う。

「私も含めて、東レというチームは他のチームに比べるとうまくない選手の集まりなんです。どのチームよりも毎年ミスも多いし、上手なプレーはないけれど、でもそれをどれだけチーム力や勢いでカバーできるか。見る人からしたら大ざっぱで、大胆な“東レのバレー”に持っていけるように、まずは雰囲気づくりから。やるべきことをしっかりやっていきたいです」

 若い選手たちにも、見る人たちにも、もう一度“強い東レアローズ”としての記憶を残したい。なぜならそれが、今の自分にできることで、やるべきことだから。

 木村が言った。

「五輪予選もありますが、今はまだ、そこは考えずにまずはしっかりこのリーグ。来週(ファイナル3)、再来週(ファイナル)と目先の目標をまずクリアして、ここで結果を残したいです」

 もう迷いはない。一歩ずつ、壁を乗り越え進んでいく。どんな時も、バレーボールを楽しむことを忘れずに。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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