300点超えを生んだ羽生結弦の“気づき” 無駄ではなかった2つの苦い記憶
見る者を驚愕させたスコア
羽生結弦(ANA)のコーチであるブライアン・オーサーは、愛弟子の演技について感想を求められるとそう答えた。
NHK杯で羽生が見せた演技は、見るものの想像をはるかに上回るものだった 【坂本清】
冒頭の4回転サルコウはGOE(出来栄え点)で2.86点が付くきれいなジャンプで成功。続く4回転トウループ、演技後半に入れた4回転トウループ+3回転トウループのコンビネーションも見事に決めてみせる。スピンとステップにもすべて加点が付いた。アナウンスされた点数は216.07点。SPとの合計322.40点という驚異的なスコアに、会場内はどよめきに包まれた。興奮冷めやらない羽生は両手を突き上げて喜びを爆発させると、続けて行われたインタビューでは驚きと感謝の気持ちを伝えた。
「本当に信じられないです。スコアにはびっくりしましたけど、実際にスケートカナダが終わったあとから、NHK杯まで血のにじむようなつらい練習をしてきました。練習をサポートしてくださった方々、拠点としているカナダのクリケットのリンク、自分が生まれ育った仙台のリンク、すべてに感謝したいと思います」
スケートカナダ以降「人が変わった」
「技術的なところで言うと、4回転ループを試合で組み込むまでには至っていません。まずはそこを練習していきたいと思っています。ただ、それはすぐにできるようになるとは思っていません。そして次の試合からは今回自分が出した322点という得点、SPの106点という得点、FSの216点という得点が、プレッシャーとなって降りかかってくる。それに打ち勝つ、それをコントロールする精神力をつけなければならないと今は考えています」
今大会で羽生が飛躍的に点数を伸ばしたのは、4回転を多く取り入れたジャンプ構成もさることながら、メンタル面のコントロールがうまくいったことも1つの要因として挙げられる。これまで積み重ねてきた経験が生きたようだが、中でも羽生が具体的な例として挙げたのが先日のスケートカナダと昨年のソチ五輪だった。
スケートカナダではSPでミスを連発し6位スタート。FSで巻き返したが、優勝したパトリック・チャン(カナダ)には及ばず2位に終わった。その悔しさをバネに、それからは厳しくも納得いく練習を積むことで、試合に向けての自信を深めていった。SPはこれまでノーミスで演技を終えたことがないプログラムにもかかわらず、NHK杯では「ワクワクしていた」と語ったほどだ。
さまざまな経験を経て成長する羽生を、オーサーコーチ(左)は見続けてきた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
「スケートカナダは非常に良い教訓だったと思います。ユヅルはさまざまな経験を経て、より競技者として力をつけましたし、闘志がみなぎるようになりました。ユヅルは試合で勝つことが大好きですが、スケートカナダでは勝てなかった。特にSPは最悪でした。ただ、たまにはああいうことがあったほうがいいんだろうなとも思ったんです。スケートカナダ以降、ユヅルは人が変わったみたいでした。今回も現地入りしてからの準備がすごく良かったんです。いつもより落ち着いていて、非常に自信も持っていました。ユヅルは大会にどうやって臨めばいいのか、自分なりに見つけたんだと思います」