若き豪腕がもたらした宿敵相手の快勝劇 大谷翔平の投球に韓国監督もお手上げ

中島大輔

韓国相手に圧巻のピッチングを見せた大谷 【Getty Images】

 6年ぶりの日韓戦が始まる3時間前、まだ静けさが漂う札幌ドームで、侍ジャパンの鹿取義隆投手コーチは表情を崩さずに相手打線についてつぶやいた。

「あまり映像を見たくないくらい、迫力がある」

「WBSC世界野球プレミア12」で初代王者を目指す日本に対し、開幕戦で立ちはだかったのが宿敵・韓国だった。2年連続で50本塁打を放ったパク・ビョンホを含め、国内リーグで今季100打点以上を記録した選手が3人もいるほどの強力打線だ。加えて、日本シリーズMVPに輝いたイ・デホも擁している。

 侍ジャパンにとって、宿命のライバルと戦う開幕戦は今大会の行方を大きく左右すると思われた。

 だからこそ、周到な準備ができていた。相手のデータをそろえて分析したうえで、奈良原浩ヘッドコーチは決戦の予想図を前向きに描いた。その根拠の一つが、先発マウンドを託された大谷翔平だ。

「韓国打線はスイングスピードがかなり速いけど、大谷の球速がレギュラーシーズンくらいなら、そうは引っ張れない。データばかり重視しても、韓国のピッチャーと大谷ではパワーバランスが違う。試合中に(守備位置を)修正していく」

 韓国人選手たちが今季記録した好成績は、あくまで国内リーグでのものだ。大谷が相手なら同じ結果にはならないはずである。

流れを引き寄せた大谷の立ち上がり

 一方、先発マスクをかぶった嶋基宏はこう見ていた。

「クリーンアップが強烈だから、ランナーなしで迎えられればいいですね。でも、三振が多いバッターがいるので、ランナーがいるときでも正しい攻めをすれば大丈夫」

 女房役の宣言通り、大谷は初回から「正しい攻め」を見せた。1番のイ・ヨンギュにはストレートを4球続けて2ボール、2ストライクとし、外角低めのフォークでセカンドゴロ。続くチョン・グンウは152キロのストレートを内角に投げ込み、詰まらせたショートフライに仕留めた。3番のキム・ヒョンスには161キロのストレートなどで追い込み、最後はフォークを落として空振り三振に切って取る。

 力強い真っすぐで押し込み、鋭く落ちるフォークでバットに空を切らせるという、これ以上ない立ち上がりだった。

「後ろにいいピッチャーがいるので、1点もやらないつもりで1回から行きました」

 そう振り返った大谷は2回、フォークと157キロのストレートでふたつの空振り三振を奪い、スコアボードにゼロをつける。するとその裏、平田良介のラッキーなタイムリー二塁打と坂本勇人の犠飛で2点を先制した。

 試合後に小久保裕紀監督が、「大谷が素晴らしいピッチングをしてくれたおかげで、打撃陣もどしっと構えて攻撃できたと思います」と語ったように、大谷の立ち上がりからの好投が流れを呼び込んだ格好だった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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