若き豪腕がもたらした宿敵相手の快勝劇 大谷翔平の投球に韓国監督もお手上げ

中島大輔

5回のピンチも3者三振で切り抜ける

小久保監督(左)は「きょうは大谷翔平に尽きる」と語った 【Getty Images】

 味方が先制してくれたリズムを受け、大谷はさらに自身の好投で流れを加速させる。3回にはフォークでふたつの三振を奪って0点に抑えると、4回はこの試合初ヒットを打たれたもののゲッツーで切り抜けた。

 そして、見せ場は5回だ。注目されたパク・ビョンホとの対戦では詰まらせながらもライトへの二塁打とされると、続くソン・アソプにはストレートの四球を与えた。

 無死一、二塁。この試合初のピンチが訪れると、マウンドに内野陣の輪ができる。叱咤(しった)を受け、大谷はスイッチを入れ直した。

「(パク・ビョンホに打たれたのは)詰まったヒットだったので、気持ちはよくなかったですけど、そんなに引きずらずに、嫌だなという感じはなかったので。『3人三振とればいいや』くらいの感じで行けたのがよかったと思います」

 その言葉通り、3者連続三振でこのピンチを仕留めたのだ。

 6回には155キロの外角高めストレート、そして外角のボールゾーンから入ってくるスライダーでふたつの見逃し三振を奪うなど、完璧なフィニッシュ。6回91球を投げて被安打2、10奪三振、無失点で降板し、前夜から「緊張していた」という21歳の若武者が日韓戦で勝利に導いたのだ。

周囲は絶賛も、大谷はいたって謙虚

「かなり前からプレッシャーがあったが、きょうは大谷翔平に尽きると思います」

 小久保監督がそう絶賛すると、敵軍のキム・インシク監督はお手上げだった。

「大谷はボールが非常に速かった。フォークが良かったのはストレート(真下)に落ちたり、ボールゾーンに(変化して)来たり、同じフォークでも(違う変化をして)韓国の打者を惑わせるに十分だったと思う」

 大谷の持ち味をうまく引き出した嶋は、そのすごみを再確認していた。

「(国際大会で)初めて本戦で受けたんですけど、本当に素晴らしいピッチャーだなとあらためて思いました。真っすぐは勢いがあるのでだいたい(のコース)でいいんですけど、決めにきたときのフォークの精度の高さが素晴らしいなとあらためて思いましたね。低めに行けば空振りをとれますし、真っすぐもある程度のところに行けばファウルをとれて。思っている通りに攻められたと思います」

 しかし嶋の賞賛を受けた大谷は、いつものように謙虚な口ぶりだった。
「前もって集めてくれたデータとか、(きょうは)それがすべてかなという感じだったので。調子がすごくいいわけじゃなかったですし、そういうデータが生きてくれた部分がすごくあると思うので。データ班には感謝しますし、今後も大事になってくるかなと思います」
 ただ、たとえ本人がいくら控えめに語ろうが、日韓戦を勝利に導いた立役者は大谷だった。

 小久保監督は打線にいい流れを呼び込んだ点も評価したが、6日の強化試合プエルトリコ戦で受けた死球で出場が危ぶまれた中村剛也は4番として2安打を放ち、坂本、中田翔、松田宣浩、平田もマルチ安打を記録している。計12安打で韓国に5対0の完勝を収め、日本はこれ以上ない形で初戦をモノにしたのだ。

 試合後の勝利監督インタビューで、小久保監督は高らかに語っている。

「台湾に行っても緩めることなく、全部勝って予選を通過したい」

 若き豪腕エースに牽引され、初代王者を目指す侍ジャパンは力強い第一歩を踏み出した。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント