岡崎慎司を支える「考える力」 悩んで見つけたセカンドストライカーの道

田嶋コウスケ

優れた自分を客観的に捉える力

新天地レスターでもポジションをつかんだ岡崎。そこには彼の秀でた「思考力」があった 【写真:アフロ】

 ピッチを絶えず走り回り、泥臭くゴールを目指す。あるいは、取れるか取れないかのルーズボールに身体ごと突っ込み、ユニホームを真っ黒にする。ブンデスリーガで活躍していた岡崎慎司に対し、英国在住の筆者は漠然とそんな印象を抱いていた。

 しかし、レスター・シティで取材を進めていくうち、そのイメージの半分が正解で、半分が大きく外れていることが分かった。当たっていたのは、フィールド内でのプレーぶり。ハードワークを厭わず、献身的な動きでチームを支える姿は、まさにイメージ通りだった。レスターでフル出場を果たした2試合はいずれもチームトップの走行距離をたたき出し、汗かき役として抜群の存在感を放っていた。

 一方、外れていたのは彼の内面、その思考力だった。がむしゃらなプレースタイルから、猪突猛進の“岡崎像”を勝手に膨らませていたが、試合後の取材で会話を交わしていくうちに、わたしのイメージは根底から覆された。考えに考え抜いた末に、岡崎がピッチの上で自己表現をしていることに気づいたからだ。深い洞察力と思考力の上に、岡崎慎司という選手は成り立っていると──。

 例えば囲み取材でも、記者の質問を予め知っていたかのように、岡崎はまくし立てる。だが同時に、その分析は冷静で正鵠(せいこく)を射ている。自分の中で問題点と解決策を消化できているからこそ、ひとつひとつの言葉に迷いがないのだ。

 プロサッカー選手なら、成功をつかもうと熟考を重ねるのは当たり前のことだろう。環境や言語、サッカースタイル、生活までもが激変するヨーロッパに身を置けば、なおさらのことである。しかし岡崎には、これまでイングランドで挑戦してきた日本人アタッカーとは少し異なる印象を抱いた。

 その理由は、自分が置かれている状況を客観的に捉えられる点にある。問題点を俯瞰して捉え、解決策を見いだす。その術は、今までイングランドに籍を置いた日本人アタッカーの誰よりも優れている。

 具体的にはこうである。レスターのチーム戦術を正確に理解し、ポジションを争うライバルたちの特徴も合わせて把握する。そこに、自分のプレースタイルを重ね合わせることで、アピールポイントを確立する。その結果、自分の居場所を見いだすという難作業を、レスターに合流して3カ月弱でこなしてみせた。途中交代が多いことから「絶対的な立ち位置」こそ確立できていないが、8節を終えて7試合に先発出場しているのは「思考力のたまもの」なのである。

生き残りを懸けて選んだ「献身性」という武器

ライバルの強力な個の力に対抗するため、岡崎は「献身性」という武器を選んだ 【写真:ロイター/アフロ】

 岡崎の「考える力」とは何か。強く印象に残っているのは、入団会見時の彼の言葉だ。日本代表FWはこう語っていた。

「献身性などが評価されているかもしれないけれど、求められているのはゴール。自分はゴールを奪うためにプレミアリーグへ来ている」

 チーム合流後に行われた入団会見で、背番号20はゴールへの強いこだわりを口にした。背景には、ブンデスリーガで2季連続で二桁ゴールをたたき出したプライド、そして揺るぎない自信があったのだろう。もちろん、欧州では結果が何よりも大事であることも、シュツットガルトとマインツ05で痛いほど経験してきたはずだ。ゴールこそ最大のアピールポイント。そう考えていたに違いない。また同時に、こうも述べている。

「いろいろなものを捨ててレスターに来た。もう一度、いろいろなことを取り入れたい。このチームで輝ける場所を見つけたい」

 ここから「生き残り」を懸けた戦いが始まった。

 レスターに合流した当初、岡崎の序列は「FWの4番手」だった。レギュラー争いで、一歩遅れてスタートしたのである。しかもトレーニングでは、ライバルの「個の力」に舌を巻いた。FWのジェイミー・バーディには抜群の「スピード」、レオナルド・ウジョアには敵を圧倒する「高さ」という突出した才能があった。一方で、岡崎には「これといった武器がない」(本人)。だから、日本代表FWは考えた。

 今シーズンから指揮官に就任したクラウディオ・ラニエリ監督は、イタリア人らしく守備に重きを置く堅実派である。そこで、自分のアピールポイントに押したのが「献身性」だった。「このチームにそういう選手がいないから」と豊富な運動量を駆使し、前線からの守備で貢献する。さらに、最前線と中盤をつなぐ潤滑油として機能し、1.5列目からゴールを目指した。センターFWのやや後方、「セカンドストライカー」のポジションに自らの居場所と存在価値を見いだしたのである。それは「岡崎の発見」と言っていいだろう。

 その結果、ラニエリ監督の信頼も勝ち取った。サンダーランドとのリーグ開幕戦(4−2)で先発フル出場。試合後、日本代表FWは「自分に一番必要なのはもちろん結果だが、(守備を)はしょってやっていたら、この試合には出られなかった」と、守備での貢献が先発起用につながったと話した。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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