岡崎慎司を支える「考える力」 悩んで見つけたセカンドストライカーの道

田嶋コウスケ

2トップの補完性を考えたプレー

岡崎は2トップを組むバーディ(下)との補完性を考えてプレーしている 【写真:アフロ】

 興味深いのは、セカンドストライカーとしての動きが、岡崎自身にとってもプラスに作用している点である。「個の力がバケモノみたいな選手がいる」(岡崎)というプレミアリーグにおいて、突出した特性を持たない日本代表FWは「自分が1トップで張っておく状態で勝負するのは無理」とさえ言い切る。ならば、どうするか。鍵を握るのは、2トップでコンビを組むバーディとの補完性だった。コンビプレーをうまく活用することで、効率的にシュートチャンスに絡めると踏んだのである。

「僕は結局、足で(前線に)飛び出すのが遅い。どうしても、バーディが行く方が簡単にキープできる。だから、あいつが(ウラを)狙って、僕はその後に走る方が有利になる」

「基本的に、僕は良い場所でパスを受けて(いったん)味方に預ける。そこから、もう一回(前へ)出ていく。そういう流れが必要です」

 ゴールという結果だけを純粋に追い求めるなら、最前線に残ってひたすらラストパスを呼び込めばいい。「ストライカーは、ゴールをとってこそ評価される」。そうした周囲の意見も、また正論である。

 しかし、岡崎はレスターで練習を重ねていくうちに、プレミアリーグでゴールだけを追い求めるストライカーとして勝負するのは難しいと判断した。しかも「(マインツのように)ゴールを狙わせてもらえる環境は、プレミアにはない」とも言う。4番手の序列を覆し、かつ自分が輝くためには、どうすればいいか。その答えが、守備でも貢献するセカンドストライカーだったのだ。守備の負担が増えることから、マインツ時代に比べればシュートチャンスは減るが、それでも29歳のオールドルーキーは確信している。

「(自分がプレミリーグで生きるための)『これ』というプレーが今はできていると思います。そのなかで、もちろんミスがあったり、プレミアリーグの激しさとか慣れていないところが出ると思う。でも、今やっていることは(成功への道に)かなり近いのではと思っています。続けることが、今年のテーマです」

高みを目指すプロセスを楽しむ

高みを目指すプロセスを楽しみながら、岡崎の試行錯誤は今も続いている 【写真:アフロ】

「昔から、こうやって考えながらプレーしてきたのか?」

 そんな疑問をぶつけてみると、岡崎は当然とでも言いたげな表情で答える。

「生き残るためにはそうでしょう? 個々の力で自分より優れた選手がいる状況で、ずっとやってきた。日本代表でもそうです。右サイドMFでやっていた時は、『俺じゃないだろう』とずっと思っていた。でも、『どうやったら、みんなと違う右サイドを確立できるか?』って考えて。例えば、ドリブルではなくて、ファーストタッチで相手をかわして、ワンツーするとか。あるいは、パスを出したら裏に抜けるとか。やっぱり工夫することは必要です」

 もちろん、岡崎の試行錯誤は今も続いている。自分の信じる道が100パーセント正しい保証などないからだ。ただ限界を感じれば、また違う道を探せばいい。その作業を繰り返すことで、清水エスパルスからブンデスリーガを経由し、「夢だった」という英国のプレミアリーグまで辿り着いた。

 その姿は、ロードマップのない迷路で、ひたすら高みを目指しているようにも映る。しかし岡崎は、こうしたプロセスすら心の底から楽しんでいる。日本代表でチームメートの吉田麻也(サウサンプトン)とロンドンで会食したと聞き、こう尋ねたことがあった。

「プレミアでプレーする吉田選手のアドバイスは貴重だったのでは?」

 岡崎の答えは、少しばかり意外だった。

「そういうのは、あまり聞きたくないところがあります。先に知っちゃ、面白くないし」

 ベストな方法を考えて実践し、失敗を恐れず何度でもチャレンジする。それを支えているのが、岡崎の「考える力」にほかならない。

「僕はプレミアですぐに活躍できるとは思っていない。周りの人は『うまくいっているなぁ』と最初思ってくれたけれど、僕としては、ここからが本当の勝負だと思っている」

 これまで日本人アタッカーが超えられなかったプレミアリーグの壁。岡崎が語るように、言葉で言うほど簡単なものではないだろう。だがその壁を乗り越えようという気概に、岡崎は満ちている。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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