“5000m9位”が持つ、数字以上の意義 世界陸上で躍動した才色兼備の23歳
悔しい、でも大健闘の9位
鈴木は女子5000メートル決勝で入賞まで0秒29差の9位でゴールした 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
しかし、そのレース内容は、積極果敢そのものだった。スタート直後から尾西美咲(積水化学)とともに先頭に立ってレースを進める。2000メートルの通過直後、アフリカ勢が急激にペースアップしたが、怖気づかずに食らいついた。一時は8位を4人で争う展開となったが、残り1周ではスーザン・クエイケン(オランダ)との激しいつばぜり合いを展開、最後まであきらめない姿勢が光った。
「今回はもうラストに懸けようって思っていました。(最後の100メートルは)もう全部出そうと思って走りました」
長距離の中でも特に高速化が進む同種目で、日本女子の入賞者は、1997年アテネ大会8位の引山晴美しかいない。そんな中、今大会の日本勢でただ1人、自己新をたたき出しての9位は、まさに大健闘と言って良いのではないか。
カギは高地でつくり上げた強い脚
残り1周でオランダのクエイケンと激しいつばぜり合いを展開した鈴木 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
快走のカギを握ったのは、7月下旬から大会直前まで実施した、米国・ボルダーで高地トレーニングだ。154センチ、39キロの小柄な体は細く、弱い。高橋監督もかつて、「鈴木の体は全然できていないんです」と教えてくれたことがある。スピードに特化したものではなく、まずは起伏のあるコースなどを走りながら距離をしっかりと踏み、土台となる脚づくりに集中した。
「しっかり練習が積めたという自信はありました。監督からも『5000メートルの選手の中では1番距離を踏んできている。2本目だから、ダメージは他の選手よりも少ないと思うので、そこは自信を持ってやって来い』と送り出してくれて。その点で自信を持って臨めたのかなと思います」
充実したトレーニングを裏付ける事実がある。それは、長らく遠ざかっていたスパイクを今大会で着用したことだ。ピンをタータンに引っかかるようにして走るため、トラック種目でのスパイク着用は大きなアドバンテージになる。鈴木はこれまで、高校時代に足の甲を二度疲労骨折した経験から、「もう1回骨折したら……」と、脚への負荷が大きいスパイクの着用を避けてきた。しかし今回は、「最後の競り合いのために」と蛍光イエローのスパイクをしっかりと着用。それは、不安を払しょくするだけの脚づくりができていることの証明でもあった。
自分の中に眠る瞬発力を呼び起こす
尾西(左)とともに積極的にレースを引っ張った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
今後磨いていきたいのは、ラストスパートのキレや、急激なスピードアップへの対応力だ。バスケットボール経験の下地があってか、中学時代までは、スピードの切り替えはむしろ得意だったという。それが高校、大学と瞬発力を鍛える機会が減り、力が発揮できなくなっていた。言い換えれば、まだ自分の中で眠っているその感覚があるということ。それを呼び起こすことができれば、「またチャンスは広がるのではないか」と、さらなる可能性を見いだしている
結局、今大会の日本は、当初の「メダル2、入賞6」との目標から程遠い、「メダル1、入賞2」に終わった。ハイレベルな争いも多く、世界と水を開けられた感はいなめない。そんな中で、最後の最後まで挑戦する気概を見せたさ鈴木の力走は、リオデジャネイロ、そして東京へとつながる一筋の光のように見えた。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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