燕のサブマリン、山中が開花したわけ 投球の幅を広げた手首と下半身の変化
誰もが口をそろえるテンポの良さ
ここまで6戦6勝でチームを支える存在になった山中。テンポの良い投球で相手打線を手玉にとり、味方の攻撃にリズムを与える 【写真は共同】
そんなシンデレラ・ストーリーを体現しているのが、東京ヤクルトの山中浩史(29歳)だ。今季、1軍初登板となった6月12日の埼玉西武戦(西武プリンスドーム)で先発としてうれしいプロ初勝利を挙げると、そこからなんと6戦6勝。これは球団史上でも、国鉄時代の1958年に金田正一が開幕から9戦9勝を記録して以来の快挙だった。
山中のような下手投げ、いわゆるアンダースローの投手は、現在のプロ野球では他に西武の牧田和久、東北楽天の加藤正志くらいしか見当たらず、実に希少な存在と言っていい。だが、それにしても、なぜここまで勝てるのか? 誰もが口をそろえるのは、その投球のリズム、テンポの良さだ。
「ストライク先行でリズムも良いし、野手も守りやすい印象がある」(真中満監督)
「山中が勝てる理由? テンポの良さと、ストライクをどんどん投げることかな」(高津臣吾投手コーチ)
さらに捕手の中村悠平は、次のように分析する。
「ポンポン投げてくるので、バッターにしたら自分の間合いで打てないですから。考える前に投げてくるというか、間合いがすごく短いので投手有利で投げられますよね」
チームの正三塁手にして、現在セ・リーグ首位打者の川端慎吾も、こう証言する。
「(ピッチャーの)テンポが良いと、やっぱり守りやすいです。それにこれだけ暑いと、守る時間が短い方が攻撃に集中できますから。夏はずーっと守っていると体力の消耗も大きいですし、疲れやすくなりますからね。逆に相手のピッチャーにポンポン投げてこられると、考える時間があんまりないので、(バッターとしては)けっこうイヤですね」
「下半身」と「手首」が好調を支える
「自分のペースを守っているので、それで自然とテンポが良いっていう感じになっていると思うんですけど、特別そういうのは意識していないです。ただ、それで野手の動きが良くなればいいし、攻撃のリズムも作れればいいかなとは思ってます」
では、今の好調の要因を、本人はどうとらえているのか?
「今年は下半身で投げられていて、だいぶ制球がしっかりしているなとは思います。去年はただ投げている感じがあったのですが、今は下半身でしっかり押し込めているので。そういうトレーニングもしてきましたし、あとは(投球の際に)手首を立てるようにしたりとか、そういうのがうまくいっているのかなと思います」
下半身で投げる──。手首を立てる──。実はこの2つが、今の山中のピッチングを支えている。
「下半身で投げる」とは、山中が今年の春先にファームのトレーナーからアドバイスされたのを機に、意識するようになったことだ。
「『もう少しお尻を使って投げられたら、もっと強いボールが投げられる』って言われて、春先ぐらいからずっとお尻を使ったトレーニングをやってきたのですが、そういう成果が出ているのかなと思います。今まではヒザを中心に投げるイメージだったのですが、今はお尻で押し込むというか、お尻に体重を乗せて、そこから投げていくイメージですね」
もう1つの「手首を立てる」というのは、ボールをリリースする際の手首の角度を、時計の針に例えるなら「6時から12時」に変えるようにしたことを意味する。
「もともとは(昨年)秋のキャンプで、高津コーチに『体が寝ているから手首が落ちる』って言われたんですね。だから、体を立てるようなイメージで投げてみたら、自然と手首が立つようになりました。そこを変えたのは大きいのかなと思います」