燕のサブマリン、山中が開花したわけ 投球の幅を広げた手首と下半身の変化

菊田康彦

受ける捕手も楽しくなる山中の投球

11日の広島戦でプロ初完投、完封で6勝目を挙げた。これからどこまで白星を伸ばし続けられるか 【写真は共同】

 この2つにより、山中のピッチングはどう変わったのか?

「制球もそうですけど、ボールの威力、精度も高まっていると思います。シンカーとかスライダーとか、変化球のキレも良くなりました。感覚も良いので、すごくかみ合ってる感じがします」

 これでピッチングの幅も広がった。中村が言う。

「コントロールが良いので左右の揺さぶりが使えますし、遅いスライダーやカーブがあるので緩急もつく。アンダースローのカーブって、バッターからしたらホントに来ない感じがするんですよね。それがあるから、真っすぐもスピードガンではそんなに(球速が)出ていなくても速く感じると思うし、アンダースローなんで高めの球は浮き上がっていくような感じになる。緩急、両サイド、高低と全部使ったピッチングができるし、いろんな球で(打者を)料理できるから、受けている僕も楽しいですよ」

 8月11日の広島戦(マツダ)では6勝目をプロ初完封で飾ったが、試合後のインタビューで手応えを問われた“ヒーロー”は、「いやぁ、手応えとかはホントにないんで」と、かぶりを振った。もっとも──。「手応えを持ったら自分、油断をするので……。とにかく(相手を)一人一人打ち取っていくことだけを考えて、自信とかは持たないようにしてます」

 それが真意だった。おそらくそのスタンスは、これからどれだけ連戦連勝を重ねても、変わることはないだろう。ただし、その先には見据えるものがある。

「優勝はしたいですね。やっぱり上の人たち、石川(雅規)さんとか館山(昌平)さんが優勝を目標にしてやっているんで、僕たちもついていかないといけないし、そのためにも1つずつ勝っていければと思います」

古巣との日本シリーズを目指して「積み重ね」を

 パ・リーグでは現在、福岡ソフトバンクが首位を独走し、優勝へのマジックを着実に減らしている。初めて新天地で開幕を迎えた今シーズン、山中は古巣・ソフトバンクとの交流戦が終わってから1軍に昇格したため、チームの福岡遠征に帯同することはできなかった。だが、ヤクルトが優勝してクライマックスシリーズを勝ち抜けば、日本シリーズでソフトバンクと対戦する可能性は大いにある。

「行きたいですね、そこはぜひ。できたらいいですね」

 山中の座右の銘は「積み重ね」。少々気は早いが、ソフトバンク時代より一回りも二回りも大きくなった姿を古巣のファンに見せるためにも、これからも地道に1勝1勝を積み重ねていく。

2/2ページ

著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント