渡部香生子を金メダルに導いた3つの要因 リオ五輪も内定、見せた笑顔と涙

スポーツナビ
 渡部香生子(JSS立石)の世界選手権(ロシア・カザン)での戦いを見ていると、勝てる時というのはこういう状態なのかと納得させられてしまう。現地時間7日に行われた女子200メートル平泳ぎ決勝、2分21秒15をマークしての金メダル獲得は、まさに圧巻の泳ぎを見せての勝利だった。

充実した練習で得たゆるぎない自信

圧巻の泳ぎで金メダルを獲得した渡部香生子。リオデジャネイロ五輪代表にも内定した 【Getty Images】

 渡部が勝てた要因を挙げるとすれば、大きく3つある。まずは大会を迎える前の調整がうまくいったことだ。本番では、やってきたことを信じてやるだけだと思えるほどの、練習量をしっかりとこなすことが重要となる。渡部は、スペインのシエラネバダで高地トレーニングを行うなど、日本を2カ月半ほど離れて欧州で調整を続けてきた。この強化日程は、前日に女子200メートルバタフライで金メダルを獲得した星奈津美(ミズノ)と同じである。ともに金メダルを獲得した2人は、高地で元来の武器であるスタミナに磨きをかけ、終盤に一気に追い上げる展開で頂点までかけ上がった。

 2つ目は、レースにほど良い緊張感を持ちつつも、落ち着いて勝負を楽しめる状態で臨んでいたことだ。周りを意識しつつも、それに左右されるのではなく、各レースに戦略を持って臨み、それを遂行するべく自分の泳ぎに徹することができていた。渡部の決勝のレースプランは、ライバルとなるリッケ・ペダーセン(デンマーク)についていきながら、終盤に逆転するというもの。「これまで良い練習ができていたので、自分を信じて泳ごうと思いました」と自信を持っていた渡部。そのプランは現実のものとなり、ラストで失速したペダーセンを尻目に、2位のマイカ・ローレンス(米国)に1秒29差をつけて勝利した。

「(竹村吉昭)先生と話していた通りのレースです。プレッシャーの中で、想像どおりのレースができて満足しています。自分らしい泳ぎができました」(渡部)

決勝では竹村コーチ(右)と思い描いていた通りのレースを展開した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 もちろん、レースでは課題も出るし、細かなミスはいくつもある。今大会の渡部は、新たに見つかった課題はその都度すぐに修正し、次のレースでは確実に改善されていた。6日の準決勝から決勝にかけては、最初の50メートルのタイムを上げることを意識し、沈みがちだった足が浮いた形でキックできるよう、修正を加えた。これらの修正がうまくかみ合うことで、記録は準決勝の2分22秒15から、決勝の2分21秒15まで改善された。ひとつひとつの細かな改善を積み重ねずして、記録更新はない。

竹村コーチの言葉に涙

 そしてもう1つ、勝つために期待に応える覚悟を持てたことが重要なのではないか。金メダルを取るならば、周囲から期待されるのは当然のこと。コントロールできるものではないから、受け入れるしかない。渡部は大会期間中、たくさんの応援を受け、その期待に応えたいという思いを強く抱いていた。実際にその期待に応え、来年のリオデジャネイロ五輪の代表にも内定。竹村コーチから「良いレースだったね」と、ねぎらいの言葉をかけられると、重圧から開放されたのか、涙をこぼしていた。

「これまであった緊張感やプレッシャーが一気にすべてなくなった感覚が最高です。これまでにないくらいスッキリとしています。今夜はもうぐっすりと眠れます」

 ミックスゾーンでそう語った渡部は、最高の“カナコスマイル”を見せた。

(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)
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