井口資仁『井口ビジョン』

井口資仁が次世代へ伝えたい“考え方”とは 自身の今後と100年先を見据えたビジョン

井口資仁
 高校では甲子園出場、大学では三冠王と本塁打新記録。

 プロ野球では日本一、メジャーリーグでは世界一を経験し、ロッテ監督時代は佐々木朗希らを育てた。

 輝かしい経歴の裏には、確固たる信念、明確なビジョンがあった。ユニフォームを脱いで初の著書で赤裸々に綴る。

 井口資仁著『井口ビジョン』から、一部抜粋して公開します。

子供たちに伝えたい溢れる情報の活用法

【写真は共同】

 監督を退いた後の2023年には、学生野球資格回復制度を利用して日本国内の高校や大学で指導ができるようになりました。2024年1月に静岡県内の高校へ指導に出掛けましたが、僕にとって非常に新鮮な経験となりました。これまで数多くの野球教室に講師として参加してきましたが、そのほとんどが小学生または中学生が対象で、参加者はまだあどけなさの残る子供たちでした。

 それが高校生になると体格も表情も、そしてプレーもグッと大人になります。選手自身もプレーへの理解が深まるので、一番の伸び盛りとも言える時期。アドバイスをまるでスポンジのように吸収していくので、指導する僕もワクワクする感覚になりました。

 動画サイトやSNSが普及したことで、今は誰もが情報を発信したり、受け取ったりすることができるようになりました。それだけにインターネット上には無数の野球理論やトレーニング理論などが存在します。世の中に情報が満ち溢れることは決してマイナスなことではありません。選択肢が豊富にあることは、選択肢がないことよりも圧倒的にポジティブな状況です。大切なのは、豊富にある選択肢の中からどれが自分に合っているものか見極めること。これに尽きるでしょう。

 先にも述べましたが、僕はダイエーに入団してからの数年間、思ったような打撃成績が残せなかったり、自分の打撃スタイルが確立できなかったり、頭を悩ませる日々を送っていました。しかし、金森栄治さんと出会ったことで捕手寄りの位置でボールを捉える打撃を身につけ、壁を突き破ったのです。

 ただし、金森さんの打撃理論が誰にでも当てはまるかというと、そうではありません。僕は元々、バットでボールを捉えるポイントが捕手寄りだったので、金森さんのアドバイスを受けて視界が開けただけ。例えば、もし松井秀喜が金森さんの指導を受けても同じような効果は生まれなかったでしょう。どれが正解、どれが間違い、ということではありません。自分に合っているかどうか。そこが大切なのです。

 少し前に流行ったフライボール革命についても同じことが言えるでしょう。打球速度が時速158キロ以上、打球角度が26〜30度で上がった打球が最もヒットやホームランになりやすいとされ、バレルゾーンという言葉もよく耳にしました。でも、この理論もすべての人に当てはまるわけではありません。合う人もいれば合わない人もいるのです。

 自分に何が合うのかを見極めるには、まずは自分をよく知ること。そして、いろいろな選択肢を試してみるということ。新しいことに挑戦する勇気、合わないと思ったら流行に引きずられずに捨てる勇気。この二つを持って、いろいろと試行錯誤してみるといいと思います。失敗することを恐れないでください。試行錯誤した時間は、必ず財産となるはずです。

 高校生や大学生、あるいは小中学生には、野球の技術そのものよりも、こういった考え方を伝えていきたいと思います。

次のステップを踏み出すのはいつ?

 野球評論家として2年目を迎えましたが、新たな発見に溢れる毎日を過ごしています。同じ野球を見ているのに、立場が変わると見える景色はこんなにも変わるものかという驚きの連続。ユニホームを着ている人にしか見えない世界もありますが、ユニホームを脱いだからこそ見えることもたくさんあることに気が付きました。

 そんな僕の発見や驚き、そしてこれまで積み重ねてきた経験や知識を、テレビや新聞、ウェブサイトなどメディアを通じてしっかり伝えることができるようになりたい。メディアの世界ではまだ新参者です。せっかく縁あって飛び込んだ世界ですから、中途半端な形で終わらせたくはありません。野球と同じく、求められる存在でありたいと思います。そのためには、これまでの経験を大切にしながらも頼り過ぎず、学び続けることが大切です。そもそも人前に出ることが苦手だと自覚しているからこそ、メディアを通じて発信し続けることに挑戦したいと思います。

 もちろん、もう一度ユニホームを着る機会があれば監督やコーチとして優勝を経験したいと思いますし、GMをはじめフロントオフィスの一員として球団に入ってみたい思いもあります。ただ、どちらも自分がなりたいからといって就けるポジションではありません。求められる人材でなければ、チャンスは回ってこないのです。チームを託してみたいと思われる野球人であるためにも、野球評論家として活動する今は、僕自身の知見を広める勉強の期間だと考えています。次のステップを踏み出すのは、あと2、3年後のことでしょうか。

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