コロンビアサポーターの災難な1日 代表チームは敗れ、デモで足止めを食らう

中田徹

ベネズエラが起こしたサプライズ

ベネズエラが優勝候補のコロンビアを下すサプライズを起こした 【写真:ロイター/アフロ】

 チリの首都、サンティアゴから85キロ南にランカグアという町がある。ここのスタジアム、エル・テニエンテの収容人員は1万4000人弱。このスタジアムは1962年のワールドカップ(W杯)チリ大会で4会場の一つとして選ばれ、当時の強豪国ハンガリーが素晴らしいパフォーマンスを発揮したという。

 このスタジアムの最大の売りは、ゴール裏に広がるアンデス山脈の景観だ。スタジアムそのものはかなり小ぶりだが、それがかえって美しい山並みのパノラマを邪魔せず、風景に迫力を与えている。試合を見ながら時おり景色に目を奪われ、熱気を帯びた試合の最中にも「ああ、空気がうまい」と感じさせてくれるのが、ランカグアのエル・テニエンテスタジアムだった。ここで現地時間6月14日、ベネズエラがコロンビアを1−0で下すサプライズを起こした。
 
 コロンビアは今回のコパ・アメリカの優勝候補の一つである。去年のブラジルW杯ではハメス・ロドリゲスが世界のスターに仲間入りした。一方、エースストライカーのラダメル・ファルカオはW杯を負傷で欠場し、マンチェスター・ユナイテッドでは不振に終わった雪辱をこのコパ・アメリカで果たそうとしている。セビージャの一員としてヨーロッパリーグを制したカルロス・バッカ、キレのあるドリブルを見せるフアン・クアドラードら、華のある選手がそろっている。

 守備も堅く、ピンチの際にはGKのダビド・オスピナの堅守が心強い。そのためサポーターの期待も大きく、今回のコパ・アメリカにはブラジル、アルゼンチンに次ぐ数のサポーターがコロンビアからチリに集まっている。エル・テニエンテは完全に彼らのホームゲームとなり、ピッチの上でもポゼッションを高めて試合を支配したかに見えたのは、コロンビアの方だった。

コロンビアの猛攻及ばず

ファルカオ(写真)らを中心に攻め立てたコロンビアだったが、ベネズエラの守備を崩せず 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし、ビノティント(赤ワイン)のニックネームで知られるベネズエラは、ハイプレスからのショートカウンターと引いた位置からのロングカウンターを織り交ぜ、前半に関してはチャンスの数でコロンビアを上回った。

 ベネズエラは前回のコパ・アメリカで4位という健闘を見せたが、当時のチームはセンターバックのオスワルド・ビスカロンドが守備ばかりでなく、セットプレーからの攻撃でも迫力あるものを見せていた。コロンビア戦でのビスカロンドは29分にロングボールの目測を誤り、ファルカオのシュートを許すピンチを招くなど、前半は少し不安があった。それでもチーム全体としては非常にコンパクトで、守備組織が横へのスライドを繰り返しながら、コロンビアの狙うスルーパスをことごとくカットし続けた。

 攻めの回数は少ないものの、ベネズエラは崩しの局面でアイデアがあった。60分には右サイドのカウンターからクロス。これをファーサイドでゲーラがひざまづくようにヘッドで折り返すと、ストライカーのサロモン・ロンドンが長身を生かしたヘディングシュートを決めて、ベネズエラが1点を奪った。

 ここからコロンビアが猛反撃。79分、80分の連続チャンスを逸した後、ホセ・ペケルマン監督は82分にジャクソン・マルティネスを投入して、さらにベネズエラへのプレッシャーをかける。85分にはクアルダードの惜しいシュートが枠を外す。この猛攻を4バックから5バックにシフトして受けたベネズエラは、いったんボールを奪い返してパスをつなぎ出すと、コロンビアの焦りを逆手にとっていなすように前へボールを運んで時間を稼ぐ。5分という長いアディショナルタイムにも明確なチャンスをコロンビアに与えず、ベネズエラがしっかり試合を完封した。

 もともと野球が盛んだったベネズエラは、南米勢の中で唯一W杯出場の経験を持たない。しかし、コパ・アメリカでは地元開催の2007年にベスト8、前回の11年に4位になるなど、確実に力を蓄え始めている。悲願のW杯出場を果たす日はそう遠くないかもしれない。

電車を遅らせたデモ

代表チームは敗れ、帰りの電車ではデモに遭遇し足止めを食らうなど、コロンビアサポーターにとっては災難な1日となった 【写真:ロイター/アフロ】

 サンティアゴからランカグアまで、電車で片道1時間15分ほどの旅となる。行きはチャントを歌い、ブブゼラを鳴らして騒々しかったコロンビアサポーターも、帰りの車中はシーンと静まり返っていた。いよいよサンティアゴ近郊に入った時、突然車両が止まり、「デモの影響で電車が進めません。一時止まります」というアナウンスが流れ、満員の車内は大ブーイング。車両は窓が開かない設計のため、人いきれで蒸し、乗客の疲労が倍増した。何のデモがどこの駅で行われたのか、われわれにはよく分からなかったが、13年のブラジル・コンフェデレーションズカップ同様、今回のコパ・アメリカもサッカーのビッグイベントを狙い撃ちしたデモを行う雰囲気がある。開幕戦の日は教育向上を願うデモが町の中とスタジアム周辺で起こり、キックオフ2時間前には入場を待つサポーターの脇でデモ隊と機動隊がぶつかっていた。

 電車は2時間以上遅れて中央駅に着いた。どうやらわれわれは45分前後、車内に閉じ込められていたらしい。コロンビアサポーターにとって災難な1日になった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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