安田で花咲くフラワーパークの子=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第99回」

乗峯栄一

とにかく白子はうまい

[写真1]負傷の秋山から乗り替わり、カレンブラックヒルの鞍上には武豊 【写真:乗峯栄一】

「トラフグをオスだらけにして、フグの白子食べ放題状態にする」というニュースがあった。何だか分からないが、とにかく白子はうまいというのは印象にある。

「白子」とは精巣のことで、元々魚類の好きな日本人は、魚の卵も食べるが、精巣もよく食べる。卵はもちろんメスが持っていて、しかも魚種によって、カズノコ(ニシン)、スジコ(サケ・卵一個一個はイクラと呼ぶ)、タラコ(タラ・辛子漬けにされたものは特に明太子と呼ぶ)など呼び名が違う。そこへいくとオスが持っている精巣は一様に「白子」であり、しかも精子一個一個を別々に食べることは(小さすぎて)不可能だから、スジコとイクラのように全体と部分で呼び名が変わることもない。

 精巣に関しては、われわれはどの魚種であっても「ああ、白子うまかった」と感想を言う。「白子じゃ分からん、どれくらい食ったんだ、精子何匹食べたんだ」とツッコまれることもないし、「“○○の白子うまかった”と魚種を言わないと、うまさが想像出来んだろうが」と怒られることもない。「白子」は魚種にかかわらず「白子」であり、食感もだいたい似ているようだ。

 でも「卵」も「白子」も食べ物として珍重されている魚種はそんなに多くない。タラ、サケ、アンコウ、イカなど数種類らしい(サケやイカの白子は個人的には人生一度も食べたことがないが)。「卵」と「白子」、どちらが取りにくいか、あるいは食べにくいかというと、圧倒的に「白子」だ。

もし“トラフグ牧場”というのがあれば

[写真2]昨秋マイルCS馬ダノンシャーク、もちろん実力からして怖い1頭だ 【写真:乗峯栄一】

 たとえばニワトリの卵といえば、ほとんど毎日のように食べるが、ニワトリの精巣は(何かにまざって食べたかもしれないが)意図的に食べたことはない。ダチョウもウズラも卵は食べたことがあるが、精巣は食べてない。家畜の卵はよく食用にされるが、家畜の精子はもっぱら繁殖のために使われ、食用にされることはほとんどない。だいたい養鶏場に行っても、いるのは卵を産むメスばかりで、オスのニワトリにはめったに会わない。たまにトサカの立派なオス・ニワトリに会って「おい、精子食わせろや」(まあ、そんなことを言う人間もめったにいないが)と言っても、やつら「フン!」とか言ってけっこう偉そうにしている。

 魚類も似たようなところがある。食用に出来る精巣は少ないし、取り出しにくいようだが、でもフグ、特にフグ鍋として珍重されるトラフグの場合は真逆である。トラフグのメスの卵巣には猛毒がある。「トラフグの卵巣はうめえぞ、こう、何だかピリピリきてよお」と爪楊枝シーハー言わせながら自慢する人間がいたら、その人間はほんとに自慢に値する人生を送っている。パイレーツ・オブ・カリビアンのような命知らずのナラズ者だ。

 トラフグの場合は、食用魚種の中で(おそらく)唯一の「卵は食べられず、精子が食べられる」生き物だ。もし“トラフグ牧場”というのがあれば、それは養鶏場とは正反対に“大きな白子”を持つオスがズラッと並び、たまに卵巣に毒を持つメスが偉そうに闊歩して「何? わたしの卵巣食べてみる?」と睨むということになる。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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