パルマ財政危機問題の経緯と展望 異常な経営体質で膨れ上がった巨額の債務

片野道郎

破産手続きは拒否、臨時総会で対応策を協議

「近いうちに再建計画を提示する」と破産手続きを拒否したマネンティ 【Getty Images】

 それを避けるための方策は、この時点では2つあった。ひとつは、マネンティが最低限、シーズン終了までの運転資金(試算では約500万ユーロ=約6億7000万円)だけでも保証すること。もうひとつは、マネンティが自ら裁判所に出向いて破産を申請し、速やかに破産手続きを開始すること。

 破産手続きが始まれば、クラブの運営は裁判所が指名する管財人に委ねられる。その場合は、裁判所と合意の上でリーグがシーズン終了までの運転資金を拠出することが可能になる(クラブが存続している限り、リーグが運転資金を補助することは制度上不可能)。

 しかし、2月27日、スタジアムの所有者であり市民の代表者でもあるパルマ市長フェデリコ・ピッツァロッティから、この2つのうちどちらかを選んで速やかに進めるよう要請を受けたマネンティの答えは、次のようなものだった。「破産を申請するつもりはない。金はもうすぐ振り込まれる。近いうちに再建計画を提示する」。会見を終えたピッツァロッティは、マスコミの前で怒りを隠さなかった。「マネンティは信頼に値しない。この人物がパルマの会長だというのなら、スタジアムの使用を許可することすらしたくない」。

 続く3月1日のジェノア戦はアウェー。クラブは限られたキャッシュフローの中から遠征費用を捻出して準備を整えたが、アレッサンドロ・ルカレッリ主将を代表者とするパルマの選手たちは、FIGC、レーガ・セリエAがそろって、この期に及んでもまったくパルマをサポートせずに静観を決め込んでいることに抗議して試合の延期を申請、FIGCもそれに理解を示す形で申請を受け入れ、6日のレーガ臨時総会で対応策を協議することになった。

赤字経営をごまかした“空の”移籍

 ここまで長々と見てきた経緯をめぐる疑問は、以下の3点に集約される。まず、ギラルディ会長の下でパルマはどうやってこれほど巨額の負債を積み上げてきたのか。次に「ダストラソ」、そしてマネンティはなぜ、そして何のためにギラルディからパルマの経営権を買い取り、手をこまねいて破産の日を待ち続けているのか。最後に、FIGCとレーガ・セリエAが、11月に給料未払いが表面化して以降も何の対応も取ろうとせず事態を静観し続けたのはなぜなのか。

 最初の問いに対する答えは今や明白だ。

 パルマの売上規模は年間およそ5000万ユーロ(約67億円)。しかしこの2、3シーズン、人件費をはじめとするクラブの運営コストは1億ユーロ(約135億円)規模に達していた。慢性的な赤字経営である。この赤字をカバーするために使われてきたのが、帳簿の上では特別収支として計上される移籍収支だった。

 パルマは12年頃から、他クラブの育成部門でプロ契約を勝ち取れなかった若手や、他クラブとの契約を満了してフリーになっていた選手と移籍金ゼロで契約を交わし、他のクラブとの間でこうした選手を「空売り」「空買い」することによって、キャッシュを動かすことなく帳簿上の利益を捻出して来ていた。

 これは違法ではないが、一種の粉飾決算であり、どのクラブも多かれ少なかれ手を染めてきた手法である。ただパルマが特殊だったのは、これをかつて誰もやらなかった規模まで拡大して、赤字の穴埋めにフル活用したところ。13年夏の時点で、パルマが契約を交わしていた選手は230人にも上っていた。これは明らかにやり過ぎである。

 これだけの数の選手を「空売り」「空買い」すれば帳簿上の利益は上がる。しかしパルマは彼らに対して毎月の給料を支払わなければならない。これがクラブのキャッシュフローが悪化した主因のひとつだったと見られている。最終的にその帳尻が合わなくなった結果が、昨夏に露見した深刻な財政難だったというわけだ。

検察局が捜査に乗り出す

 第2、第3の問いに対する答えは、あくまで仮説でしかない。

 ギラルディが経営権を手放した12月の時点で、パルマは完全な債務超過に陥っており、1億ユーロを超える負債を穴埋めしない限り、遠からず破産は免れない状態にあった。当初吹聴(ふいちょう)されたのは、その売却先である「ダストラソ」の背後には、レザルト・タチという大物がいるという説。アルバニアの大富豪が巨額の負債の肩代わりを買って出て、かねてからの夢だったセリエAのクラブオーナーになる――というストーリーである。

 しかし実際のところ「ダストラソ」は、前述のとおりのペーパーカンパニーでしかなく、しかも書類上タチとの直接のつながりは何もなかった。すべては大いなる「ブラフ(はったり)」だったというわけだ。今から考えれば、この会社は単に、ギラルディがパルマを「売り抜ける」ために用意された受け皿でしかなく、タチはそのために利用された(あるいは名前を貸した)一種の「デコイ(おとり)」だったという説の方が、ずっと説得力がある。

 その「ダストラソ」からたった1ユーロで経営権を買い取ったマネンティの「マピ・グループ」も、ほとんど実体のない会社だ。そしてマネンティ自体も、会長に就任して以来、空約束を繰り返す以外になにひとつ具体的な手を打っていないこと、にもかかわらず破産手続きを頑なに拒否していることから見て、背後にいる誰かに操られた単なる傀儡(かいらい)に過ぎない可能性がきわめて高い。

 ではいったい背後には誰がいるのか。今のところ、公には何の手がかりもない。確かなのは、このままパルマが破産したとしても、巨額の負債を作り出した張本人であるギラルディは、何の責任も問われない立場にあるということだ。一部では、FIGCやレーガの沈黙が、こうした状況を作り出してギラルディを救うための「故意による不作為」なのではないかと疑う見方も出ている。

 しかし、これだけ事態が大きくなれば、真相が解明されないまま終わるということは、(たとえここがイタリアだとしても)ちょっと考えられない。実際パルマ検察局の内部では、破産宣告をしたのとは別の部署で2月末、偽装倒産罪が成立する可能性があるとして被疑者を特定しないまま捜査チームが立ち上げられた。

 当面は、6日のレーガ・セリエA総会でどのような対応が打ち出されるかが注目されるが、その内容がいかなるものであるとしても、それで問題がすべて解決するわけではない。今後の成り行きを見守りたい。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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