パルマ財政危機問題の経緯と展望 異常な経営体質で膨れ上がった巨額の債務

片野道郎

12月半ばに経営権を譲渡

昨年12月に経営権を譲渡したギラルディ。未払い分の給料を支払わないまま、姿を消した 【Getty Images】

 しかし、ピッチ上の成績はまったく芳しくなかった。戦力的には中位を確保するだけの力があるにもかかわらず、開幕からの10試合は2勝8敗という惨憺(さんたん)たる結果で、順位表の底辺をさまよっていた。

 誰もが首をひねる中、11月に入ると新たな事実が明らかになる。リーグが3カ月ごとに行っている財務チェックを通して、7月以降の給料がまったく支払われていないばかりか、新シーズンに入って以降は、クラブの運営にかかわるあらゆる支払いがストップしていることが分かったのだ。この不安定な内部状況がピッチ上のパフォーマンスにも大きな影を落としていたことは明らかだった。

 マスコミの前に出たギラルディは「水面下でクラブの売却交渉が進んでおり、それが決着すればすべてが精算される見通しだ」と語ったが、未払い分の給料を支払おうとしないばかりか、それ以降パルマに姿を現さなくなった。

 この極度に不透明かつ困難な環境の中で毎週の戦いを続けることを強いられたチームは、その後も黒星を重ねることになる。

 そして12月半ば、パルマは、クラブの経営権がキプロス=ロシア合弁の石油採掘会社が出資する持ち株会社「ダストラソ・ホールディング」に譲渡されたと発表する。親会社には年間20億ユーロ(約2673億円)の売上があるという触れ込みだった。

 奇妙だったのは、この会社の実質的な所有者、すなわちパルマの新オーナーが誰なのかが、まったく明らかにされなかったこと。クラブの会長に就任したのは、経営の引き継ぎを担当するという弁護士だった。とはいえ、さまざまな周辺情報を総合すると、背後にはこれまでボローニャ買収やミランへの出資などがうわさに上ったアルバニアの石油成金レザルト・タチがいると見てほぼ間違いない、というのがマスコミの一致した見解だった。
 謎の新オーナーの下、パルマは1月に入るとウルグアイ代表MFクリスティアン・ロドリゲス(前アトレティコ・マドリー)、ポルトガル代表FWシウベストル・バレラ(前WBA)を獲得するなど、積極的な補強に打って出る。1月21日には、タチの経営する石油精製会社の幹部だった29歳のアルバニア人、エルミル・コドラが会長に就任した。

2カ月でオーナー交代、買収価格は1ユーロ

給料の未払いが続き、チームリーダーのひとりであったカッサーノはチームを去った 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし、表向きの華々しさとは反対に、チームを取り巻く状況はまったく改善していなかった。オーナーが変わったにもかかわらず、7月からストップしている選手の給料は未払いのまま、それどころかチーム職員の給料も11月以降支払われていないことが判明する。

 クラブ存続のためには、未払いの給料を精算するだけでなく、それまで積み上げてきた巨額の負債を穴埋めして、財政を健全化することが必要。しかし、決して表に出てこようとしない新オーナーにそのつもりがあるのかどうかは、まったく定かではなかった。

 1月26日には、チームリーダーのひとりである元イタリア代表FWアントニオ・カッサーノが「この7カ月間毎日、明日払うからと聞かされ続けてきた。こんなふざけた話にこれ以上付き合うわけにはいかない」と言って、クラブと合意の上で契約を解消し、チームを去った。続いてブラジル人DFフェリペも同じ道を選ぶ。

 このように状況がさらに深刻さを増してきた2月、事態はさらなる展開を見せることになる。「ダストラソ・ホールディング」がわずか2カ月足らずで、事実上1ユーロも投資しないままパルマを手放したのだ。

 シーズン3人目のオーナー(5人目の会長)となったのは、イタリアと国境を接する隣国スロベニアの都市ノバ・ゴリカに本社を置く「マピ・グループ」を所有するジャンピエトロ・マネンティ。ロシアのエネルギー系企業と資金的なつながりがあるという触れ込みで、1年前にはやはり財政難に陥ったセリエBのブレシア買収に乗り出したイタリア人である。この時は、公証人の前で契約書にサインするところまで行きながら、保証金を積んでいないことが判明してキャンセルになった。

 今回パルマの経営権を買い取った金額は、わずか1ユーロ(約134円)。就任記者会見では「買収価格は問題ではない。問題はクラブが抱える負債だ。その穴埋めに1億ユーロの資金を用意している。信頼してほしい」と大見得を切った。

買収した企業は実態のないものばかり

 ところが、それから何日経っても、マネンティは「東欧からイタリアに金を振り込むには手続き上の問題がある。もう少し時間がかかる」と言い続けるばかり。その間に、「マピ・グループ」の本社所在地がノバ・ゴリカ郊外にあるみすぼらしい田舎家の2階にあり、資本金もわずか7500ユーロ(約100万円)という事実上の幽霊会社であること、登記簿に記載されている会社の法人口座は2月半ばに閉鎖されていたことなどが明らかになってきた。さらに、そのマネンティに経営権を売却した「ダストラソ・ホールディング」も、資本金わずか1000ユーロ(約13万円)のペーパーカンパニーだったことが判明する。

 こうなっては、負債の穴埋めはもちろん、未払いの給料が精算される希望すらほとんどないことは、誰の目にも明らかだった。事態を重く見たパルマ検察局は、冒頭で見たように2月17日に税金滞納を理由としてパルマFCに破産を宣告。クラブが保有するチームバスとミニバン、コンピュータやロッカールームの家具などの資産を差し押さえて競売にかけ始める。クラブの銀行口座に残っていた現金も数十万ユーロ(数百万円)単位まで減り、練習場の電気やガスはストップ、試合開催のために必要なスチュワードを雇うために警備会社に支払う費用にも事欠くところまで逼迫(ひっぱく)してきた。

 こうして2月22日のホームゲーム(ウディネーゼ戦)は、スタジアムの安全が確保できないという理由で中止・延期となる。延期と言っても、開催日は未定のまま。何らかの形で残り試合分の運転資金を確保しない限り、パルマがシーズンを戦い続けること自体が不可能であることは明白だった。

 もしパルマの残り試合がキャンセルされることになれば、セリエAのイメージや信頼性が国内外(とりわけ国外)で著しく損なわれるだけでなく、TV放映権契約や年間チケットなどをめぐる補償問題も発生して、大きな混乱が生じることは避けられない。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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