今季ユナイテッドにけが人が続出した理由 プロが語る正しいプレシーズンの過ごし方
急激な負荷はフレッシュネスを失う
シーズン前半にけが人が続出したユナイテッド、その要因はプレシーズンの過ごし方にあった 【写真:Action Images/アフロ】
しっかりオフをとって英気を養った選手たちは、すっかりフレッシュな状態でチームに合流したはずだ。その一方でトレーニングからしばらく離れていたこともあり、コンディションはこれから上げていかなければならない。つまり、プレシーズンの目的はこうなる。
選手たちのフレッシュネス=疲労を溜めずに維持
選手たちのコンディション=向上・改善に務める
しかし、サッカーのコンディショニングのエキスパート、レイモンド・フェルハイエンによれば、「実際のプレシーズンでは、指導者たちは選手のコンディションを急いで上げようとし過ぎ、選手たちのフレッシュネスを落としてしまう」と憂いている。コンディションを一気に上げれば、選手とチームはすぐに公式戦を戦える状態になるが、その効果は短い。クラブチームにとって重要なのは1シーズンを通じて戦えるコンディショニングだから、徐々にトレーニングの負荷を上げていく方が望ましい。
今季前半戦、マンチェスター・ユナイテッドはけが人が相次ぎ、その数は延べ50人を越えた。11月22日のプレミアリーグ第12節、アーセナル戦の欠場者リストはDFマルコス・ロホ、ラファエウ・ダ・シウバ、フィル・ジョーンズ、ジョニー・エバンス、MFダレイ・ブリント、FWラダメル・ファルカオだった。
フェルハイエンは「ルイ・ファン・ハール監督のプレシーズンの失敗が、選手たちの負傷を誘発した」と厳しく批判する。
ワールドフットボール・アカデミーの主催者であるフェルハイエンは昨年12月、オンラインセミナーにてユナイテッドのプレシーズンをケーススタディーしながら、「正しいプレシーズンの過ごし方」を日本人指導者に向けてレクチャーした。今回はユナイテッドのケーススタディーにスポットを当てて紹介しよう。
2部練習による疲労の蓄積
W杯の影響でオフが短くなる中、プレシーズンで2部練習を行うことで疲労が蓄積していた 【写真:ロイター/アフロ】
オフシーズンが短い場合、選手たちはある程度試合ができるフィットネスを保っているが、疲労は抜けてない。こういうチームにとって、プレシーズンの目的はこのようになる。
選手たちのフレッシュネス=疲労を除いて向上させる
選手たちのコンディション=維持に務める
ファン・ハールという指導者は、コンディションの知識を豊富に持っており、彼が率いたオランダ代表もコンディションで他チームとの差を作りW杯で3位になった。また、ファン・ペルシーにはユナイテッドの米国遠征参加を免除している(それでもファン・ペルシーのオフは3週間しかなかった)。
しかし、ファン・ハールのコンディショニングの知識が完全かというと、そうでもない。オランダ代表の指揮官としてファン・ハールは、オランダリーグを戦い終えたばかりの若手20人を集めて1次合宿を行ったが、長いシーズンの疲労を溜めた彼らに対して何度も強度の高い内容で2部練習を行った。
疲労を溜めた状態で2部練習をするとリカバリーする時間がなくなり、午後の練習は午前の練習よりも質が低くなる。翌日の午前練習は24時間前の練習より質が低くなる。
疲労も蓄積する。練習中の疲労は当然のことだが、トレーニングとトレーニングの間にしっかり疲労を取り除かなければならない。疲労が蓄積させながら練習を続けると神経システムが遅くなり、脳から筋肉へ伝わる信号が遅くなる。たとえばジャンプして着地する際、脳からの信号が筋肉に伝わっておらず、体が筋肉に守られてない状態で着地し、負傷する。疲労の蓄積はけがのリスクを高めるのだ。