高橋光成を覚醒させたある言葉、昨夏V右腕に備わった甲子園への覚悟

田中夕子

自信と充実感を得たセンバツ優勝投手との投げ合い

2年生エースながら夏の甲子園優勝投手となった高橋。ケガを乗り越えて連続出場、そして連覇を目指す 【写真は共同】

 群馬県大会の開幕を約1週間後に控えた7月6日。昨夏の覇者、前橋育英高のエース・高橋光成は昨春のセンバツを制した浦和学院高との練習試合のマウンドに上がった。

 自身と同じように2年生で甲子園の優勝投手となった左腕・小島和哉との投手戦。「それほど強く意識はしなかった」と言いながらも、試合前のブルペンでは2人が並んで投げる場面も。スカウトや取材陣といった関係者のみならず、「2人の対決が見たい」と足を運んだ多くの高校野球ファンがワクワクしながら両者の対決を待ちわびる中、実は、小島との投げ合いを一番楽しみにしていたのは高橋自身でもあった。

「もうちょっと抑えなきゃいけなかったんですけど、隣に(小島が)いる、と思ったら、ちょっと力を入れすぎて。全部、めいっぱいで投げちゃいました」

 前橋育英高の荒井直樹監督は、コンディション次第では完投も視野に入れていたと言うが、ブルペンでの全力投球の影響か、やや疲労が目立ち始めた高橋は7回を投げ、ベンチへ。5失点は喫したものの、6奪三振に加え、今季最速の147キロをマークした。

「打たれたけれど、『やられた』という印象はない。ストレートも伸びていたし、状態は上がってきた。(7回5失点も)前向きに捉えています」

 一番良い状態で夏を迎えられる。最後の練習試合を戦い終えた高橋の表情は、幾多もの壁を乗り越えて得られた自信と、充実感にあふれていた。

練習着が着られないほど体を鍛えた冬

 昨秋は1回戦で太田工業高に敗れ、センバツ出場はならず、秋から冬の期間は体づくりにあてた。主に下半身と体幹の強化。デッドリフトやスクワットなど、清水陽介コーチが組み立てるトレーニングメニューに加え、300メートル×10本の走り込みを行い、夏に戦う体力を備える日々が続いた。

 センバツ出場を逸したことは、さほど大きなマイナスだと感じていなかったのが、春季大会の開幕を2カ月後に控えた1月、思わぬアクシデントに見舞われた。

 バント処理の際に打球が直撃し、右手親指を骨折。握力も低下し、投げられない時間が続く。「もういいボールは投げられないんじゃないか、と心配だった」と言うように、焦る気持ちもあったが、いつまでもクヨクヨしても仕方がないし、夏の大会に向けた強化はこれからが本番だ。投げ込みができない分も課題に掲げてきた下半身強化のトレーニングにより一層打ち込み、冬から春を迎え、最上級生となった今春には昨夏と比べて体重が7キロ増加した。

 心配されたケガも大事には至らず、指先の感覚も問題なし。高橋自身も「むしろ前よりも余計な力が抜けた分、指のかかりが良くなった」と言うように、ケガをしたことはマイナスばかりでなく、プラスの要素ももたらした。

 もしもあるとすれば、想定外は1つだけ。

「練習用のユニホームパンツが小さくなってきたので、新しいのを買ったんです。でもなくしちゃって。もうあと数カ月しかないのに、親に『また買ってくれ』と言うのも申し訳ないから、破れたパンツを今でも履いているんです」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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