高橋光成を覚醒させたある言葉、昨夏V右腕に備わった甲子園への覚悟
ついて回る“昨夏優勝投手”のプレッシャー
センバツ出場を逃した冬に下半身と体幹を鍛え上げた高橋。ピッチングはもちろん打撃でも4番の重責を担いチームをけん引する 【写真は共同】
春季大会は登板できずに終わったが、佐野日大高や日南学園高、横浜隼人高など、全国の強豪校との練習試合を通し、実戦感覚も養った。骨折も完治し、さあここから、という矢先、ケガよりも高橋を苦しめたのは、この1年で大きく変わった環境の変化と、それに伴うプレッシャーだった。
各都道府県の予選が始まり、書店の店頭には「甲子園」に向けた注目選手や注目校を取り扱う雑誌が並ぶ。当然ながら、昨夏の優勝投手である高橋もその例外ではなく、雑誌の表紙に自分の顔が載り、街を歩けば声をかけられる。注目されることはうれしいことなのだが、戸惑うことも少なくない。
時折、メールでやり取りをするという父・義行さんがこう明かす。
「まさかこんなに騒がれるとはね。本人も、周りの僕らも想像しませんでした。光成から連絡が来るのは気が向いた時ぐらいですが、5月、6月頃は『疲れた』とか『力が入りすぎた』と言ってくることが増えた。注目されてダメになるヤツじゃないですけど、中学の時は無名だし、こういう状況に慣れてないから。めいっぱいだったんでしょうね」
「夏に勝つ」ために投げることを教えてくれた先輩
「自分では『いい感じだな』と思って投げても、打たれると必要以上に焦っちゃう。スカウトとか、こんなにたくさん人が来てくれて、期待してくれているのに打たれちゃマズイだろ、って。どんな時でも、いいピッチングをしなきゃ、とすごく気負っていました」
顕著だったのは、6月14日の東海大相模高との練習試合だ。
先発の高橋は5回を投げ、2本の本塁打を含む6失点。いくら練習試合とはいえ、満足できるピッチングには程遠く、さすがに落ち込んだ。気持ちを切り替えるのも容易ではなかったが、1本の電話が高橋を覚醒させた。
昨夏、18Uワールドカップをともに戦った、ある先輩からの言葉だった。
「お前はスカウトのために野球をやっているのか? お前が注目されるようになったのは、甲子園で勝ったからだろう。だったら、スカウトにいいところを見せようと思うよりも、夏に勝つことの方が大事なんじゃないか」
その一言で、ふと我に返った。周囲の評価ばかりが気になって、打たれた後、自分の出来ばかりが気になって顔に出してしまうことも少なくなかったのではないか。思い当たることはいくつもあった。
でもそれでは、チームを引っ張る存在とは言えない。自分が評価されるためではなく、チームを勝利に導く存在にならなければ――。夏の到来を前に、高橋に覚悟が備わった。
エースで4番の重責を背負い、狙うは甲子園だけ
「去年以上に『俺がこのチームを甲子園に連れていく』という意識を感じます。スピードも上がってきたし、状態も非常にいい。野球に取り組む姿勢、周囲に与える影響、努力する姿。彼の成長を見ていると、思うんですよ。“エース”というのは、こういう選手なんだな、と」
ケガもプレッシャーも乗り越えて、エースが迎える、最後の夏。
「秋も春も負けているけど、その分、プレッシャーはなくなりました。同じように秋も春も1回戦負けでも、ノーシードから勝ち上がって甲子園に行った学校もいる。自分らも、そういうパターンで、また甲子園に行きたいし、最後まで野球を楽しみたいです」
前橋育英高の初戦は14日。高崎城南球場で、松井田高と対戦する。