十種競技愛50年 今なお情熱止まず=普及活動で世界を飛び回るある米国人の話
男子十種競技を50年以上専門的に取り上げ、エキスパートとして活動するスワロウスキー氏 【スポーツナビ】
全世界に放送、報道するメディアの中には、各国の活躍を取り上げるだけでなく、競技の普及に努める専門家もいて、日々その活動に余念がない。今回は、男子十種競技を50年以上専門的に取り上げ、同種目の“エキスパート”として知られるフランク・スワロウスキー氏に、活動の内容などを聞いた。
趣味から始まった十種競技の普及活動
大小問わず、年間で調べる競技会は300以上。シーズンのスタートとなるオーストラリアの大会にはレフェリーとして25年も続けて参加していると話す。
もともとは米国ニュー・ハンプシャー州にある大学で教べんを執り、経済学者としても活動していた。現在は客員教授のような形で携わるが、そのほかの多くの時間を十種競技の普及に努めている。
「十種競技の研究は趣味で行っているので、金を稼ぐ手段とは考えていません。この競技が好きで、選手が好きでやっています。世界の人々に十種競技を覚えてほしいというのが私の夢です」
日本より競技人口が多い米国であっても、十種競技の市場はまだまだ狭い。これまで十種競技に関わる本を9冊書いてきたが、出版に際しては、なかなかスポンサーが見つからないのが現状のようだ。
「全米陸上競技連盟やそのほかのサポートなども受けていない。私の場合、十種競技のデータを集めるだけでなく、競技の歴史を示すような本も書いています。最近では古代ギリシャの五種競技からの流れを書きましたが、ギリシャ語の文字を読むのが大変だった(笑)」
それでも、競技の普及のために日々活動しており、今はインターネットを使ってニュースレターを陸上ファンに送っている。
「長年やってきたこともあり、年間200万人ぐらいが私のニュースレターを購読してくれています。今回の世界選手権では、全部で4回のニュースレターを書きました」
「右代も経験を積んでほしい」
「すべてにバランス良く力を発揮できる選手が強いです。今のトップ選手の体つきを見てもらえば分かりますが、みんなそれほど体が大きくないし、小さくもありません。今はスピードと技術力が高い選手が強い傾向にあります」
ただ、その歴史をひも解くと、“黒い影”も見え隠れしていた時期もあったという。
「1980年代は東ドイツやロシアが強かった。ドーピングの使用が暗黙の了解で行われているような世界で、それらの国の選手は体つきが全然違いました」
ただ、ドーピングに対する規制が強くなると、90年代には『トレーニング』や『技術の向上』といった本来取るべき方法で、選手のレベルが上がってきたという。
「米国での話をすると、カード会社の『VISA』が十種競技の選手をサポートするシステムを作りました。練習施設の提供や、コーチやトレーナーを個人につけるなど、金銭的サポートを行うようになったのです。このシステムが始まってから、全米選手権のトップ10の選手は、ほとんどがこの『VISA』のサポートを受けている選手となりました」
このサポートはすでに終わっているが、このシステムの恩恵を受けた選手たちがコーチとなり、現在のトップ選手の指導を行っているのだという。
「現在、世界記録を保持しているアシュトン・イートン(米国)のコーチもこのシステムで育った選手です。このように競技の普及活動が行われたこともあり、現在のトップ選手の多くは北米の選手が中心になっていますね」
日本でもようやく右代啓祐(スズキ浜松AC)が8000点を超えるようになり、世界大会に登場するようになった。
「もちろん、右代選手も知っていますよ。彼には、もっとたくさんの競技会に参加してもらって、多くの経験を積んでほしいですね」
競技を愛し、研究し、普及活動を務めるフランク氏。最後に、彼が描く夢を聞いてみた。
「十種競技の魅力を伝える映画を作りたいと思っています。そのために、私は記録家であり、歴史家であり、ルールを教える人になり、本当の意味での“エキスパート”になろうと思っているのです」
そう言って瞳を輝かせた。
<了>
(文・尾柴広紀/スポーツナビ)
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