メダル奪還へ 新生シンクロに見た可能性=五輪銀・鈴木絵美子氏が世界水泳を総括

田坂友暁

シンクロの日本代表は、世界水泳でリオ五輪につながる演技ができたのか。アテネ五輪銀メダリストの鈴木絵美子さんが総括した 【写真は共同】

 かつてはお家芸とも呼ばれ、数々の観客を魅了してきた日本のシンクロナイズドスイミング。しかし、昨年のロンドン五輪ではデュエット、チームともに5位。五輪の正式種目となった、1984年のロサンゼルス五輪から獲得し続けていたメダルを初めて逃した。この悔しい経験を経た7人のメンバーを中心に、新たに2016年のリオデジャネイロ五輪を目指す日本チーム。初陣となる今回の世界水泳バルセロナ(シンクロは7月20日〜27日)での戦いで、3年後につながる演技ができたのだろうか。
 大会を振り返って「五輪が終わってから、日本の技術が成長したところを見せられたと思います」と話すのは、アテネ五輪のチームで銀メダル、デュエットに出場した北京五輪で銅メダルを獲得した鈴木絵美子さん。ただ「もう少し審判もお客さんも驚くようなインパクトがほしかった」とも話す。

強いという印象を与えることがキーポイント

 鈴木さんの総括に入る前に、シンクロナイズドスイミングという競技を簡単におさらいしておこう。五輪ではテクニカルルーティン(以下TR:演技中に定められた規定要素を順序通りに演技する)とフリールーティン(以下FR:自由な構成で演技を行う)の合計点で順位が決まるのだが、世界水泳はTR、FRで予選と決勝が行われ、それぞれに順位がつく。さらに、五輪種目であるデュエット、チームに加え、ソロとフリーコンビネーション(ソロ、デュエット、トリオ、グループで構成するフリールーティンを組み合わせた演技)の全4種目が行われるのも、世界水泳の特徴である。TR、FRともに技術要素、演技構成を合わせて、それぞれ100満点で採点される。

 採点競技なので“印象”が強く残り、一度ついた順位は覆りにくいのも特徴。ロンドン五輪直後の今大会は、リオデジャネイロ五輪までの『新しい格付け』が行われる年でもある非常に大きな意味を持つ大会だ。

細かい点数の取りこぼしとインパクトに欠けた日本チーム

 ロンドン五輪で5位だった日本チームが、リオデジャネイロ五輪でメダル獲得を目指すには、まずは今大会で「変わった」「強くなった」という印象を与えることが大切で、世界の『格付け』を変える必要があった。五輪の順位を上回る結果を残すことができれば、世界でも優位に戦える足がかりをつかめる。「2位から5位までは混戦。チャンスはある」と、大会前は予想していた日本チームだが、結果は厳しいものであった。

 チームのTR、FR、フリーコンビネーションこそ4位だったものの、ロンドン五輪で銀メダルを獲得した中国が欠場していた。もうひとつの五輪種目であるデュエットでも5位。ソロは乾友紀子(井村シンクロク)がTR、FRともに5位という位置に甘んじた。すべての種目で1位だったロシアとは、各種目で5〜6点もの差をつけられた。その理由を鈴木さんは、こう分析する。

「『ここでそろえると高得点』というポイントで少しずれてしまって、点数を取れるはずのところでの取りこぼしがあったと思います」

 特に水面に体を出す瞬間、逆に沈む瞬間がずれてしまうと、手足の動作が合っていても、全体的にそろっていない印象を受ける。この細かい動作のずれが点数の取りこぼしにつながった。これが日本チームの点数が思うように伸びなかった理由だ。

「せっかく難易度も高い演技に挑戦して、完成度も高いのに、細かい部分で減点されてしまう。もったいないな、という印象です」

 難易度の高い演技であっても、技の完成度は高かった。これは日本チームが成長した証だが、演技そのものではなく、ほかの部分で減点されてしまうのはもったいない。また、全体的にそつなくこなした印象が強く、『日本が大きく変わった!』というインパクトは弱かった。

 日本と対照的だったのが、ウクライナである。昨年のロンドン五輪予選で日本に敗れ、五輪に出場できなかった悔しさが、今大会の演技に表れていた。それが観客を巻き込む表現力につながり、大きなインパクトを世界に与えた。
「悔しさをバネに、今年こそ! という勢いがありましたし、前評判はあまり良くなかったスペインも、世界水泳前に行われた大会で日本に得点で並ばれたことに奮起して、絶対に負けたくない気持ちが見えました」
 気持ちと演技が完全に一致して勢いとなり、結果として、ウクライナは日本を上回る演技を見せたのである。日本チームには、この勢いから生まれるインパクトを観客にも、審判にも与えることができなかった。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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