【中学野球部地域移行シリーズ 第5弾】中学野球部と両立・併用から、完全クラブ化へ。戸田クラブが軟式チームとして高める存在価値

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【©中島大輔】

全国で中学野球部の地域移行が進められるなか、埼玉県の戸田クラブはその流れに先立つように2007年、戸田市に創設された中学軟式野球チームだ。

現在も運営に携わる山田郁夫事務局長の息子が地元の中学校に進む際、野球部は土日の1日しか活動しておらず、顧問も野球経験者ではなかった。
学童野球で熱心にプレーした息子やそのチームメイトに頼まれ、知人たちと一緒に“受け皿”として戸田クラブを設立。当初は中学野球部が休みになる土日に地元中学校や近隣のグラウンドを借りて「中学野球部と両立・併用」という形で活動し、スポーツ少年団の大会に出場していた。

それが2018年に完全にクラブチームとなったのは、大きく二つの理由がある。

「中学の軟式チームが高校の硬式野球部に選手を送るなら、クラブ選手権(全日本少年軟式野球大会ENEOSトーナメント)に出られるようにならないと」

ある高校の硬式野球部顧問からそう指摘されたのだ。

さらに当時、戸田市だけでなく近隣の中学からも選手が入部するようになっていたが、クラブチームとの掛け持ちが嫌がられるケースも出てきた。
そこで「二重登録」を避ける意味もあり、戸田クラブの選手たちは中学野球部に入らず、クラブチームだけに所属するようになった。

【戸田クラブ提供】

「部活よりいい」と市外から選手加入

現在は3年生を含めると32人が在籍し、20人以上が隣の朝霞市など戸田市外から通っている。

「細かいプレーまでしっかり教えてくれるから、部活に行くよりいいよ」

知り合いの口コミで入った卒業生が地元で宣伝し、入部する選手が続いているという。現在の3年生ではライオンズジュニア(埼玉県中学軟式野球選抜)に2人が選出。関西の強豪校に進学予定の選手もいるなど、例年、9割以上の選手が高校で硬式野球をプレーしている。

練習は火曜と木曜に19〜21時、戸田市立新曽中で実施。活動のない月、水、金には塾に通う選手が大半だという。
土日は朝8時半から夕方まで、戸田市の所有する新田公園野球場で行う。

クラブとして大きいのは、活動場所がほぼ確保できていることだ。新曽中は地元のサッカークラブと使用日を調整する一方、新田公園野球場は優先的に使用できる。そうした環境があるから、戸田クラブは継続できていると山田事務局長は語る。

「グラウンドに自分たちの用具を置かせてもらえるのは大きいです。もし、毎週のようにどこか練習場所を探しているようでは、活動を続けるのはおそらく難しかったと思います」

【©中島大輔】

監督は軟式日本一の経験者

硬式ではなく軟式チームとして活動する理由は、「それしか選択肢がないから」と山田事務局長は言う。戸田市の球場では硬球を使えないからだ。

中学から硬球でプレーしたい選手には近隣のシニアも選択肢になるなか、最近は大宮や東京・練馬のチームを選ぶ選手も増えているという。

一方で晩熟型の中学生にとって、軟式でしっかり練習できる戸田クラブの存在は大きい。拓殖大学硬式野球部出身で太陽信用金庫では軟式野球日本一の経験もある永森秀人監督が、攻走守の基礎を細かく教えてくれるからだ。

【©中島大輔】

「技術や戦術、体の使い方やコツなど、自分が学んだ『勝つための野球』を教えています。上のレベルに行けば行くほどプレーがシンプルになってくるので、それをいち早く中学生に伝えています。
チームとしてはまだ大きな大会で勝てていませんが、個人のレベルを上げることに関しては成果が出ている。高校で野球を続ける子がほとんどですが、みんな、『指導者に言われてわからないことはない』と言ってくれています」

【©中島大輔】

クラブチームのメリット&デメリット

中学の部活ではなく、軟式チームの戸田クラブに所属するメリットについて、山田事務局長は「指導者」を挙げる。

「入部する前に体験会に来てもらえれば、野球経験者の親御さんなら『こうやって教えてくれれば、うまくなれる』とわかってもらえます。それに部活なら先生が異動することもあるけれど、うちでは永森監督がヘッドコーチ時代も含めて8年前から教えています」

さらに「人脈」も大きいと山田事務局長は続ける。監督同士のつながりで、高校の指導者にも信頼や関心を寄せてもらいやすいとのことだ。

対してデメリットは「お金」だという。部費は1カ月5000円、遠征費は同1500円(3カ月ごとに集金)で、毎月6500円相当の負担が生じる。

「ただし、最低限の額です。硬式チームに比べれば、断然安いと思います。うちは市内のグラウンドが安く借りられますし、ボールも軟式球だから硬式より安い。そこまでかからない額だと思います」(山田事務局長)

【戸田クラブ提供】

「自分のチーム」という愛着

近年、少子化や競技人口減少など、中学野球を取り囲む環境は大きく変わっている。そのなかでもともと軟式野球部の“受け皿”として誕生した戸田クラブは、存在価値を高めている。
地元の中学に進むと1チームの人数がそろわないと判明している場合、「戸田クラブに行ったほうが絶対いい」と選択する選手もいるからだ。

17年前からクラブチームとして活動する山田事務局長は、指導者やグラウンドを含め、選手や親に価値を感じてもらえる土壌づくりが大切だと感じている。

「うちが続けられているのは熱心な指導者や、運営を手伝ってくれる方や保護者の存在が大きいです。みんな、『自分のチーム』という愛着があるから携わってくれるのだと思います。
小粒の選手が多いですが、永森監督は『高校に行ったときに、うちで教わったことをやっていれば間違いないから』と伝え、実際にみんな、軟式上がりでも高校でメンバーに入っています。
高校に進んだOBが顔を出して、『ここで監督から教わったことが、高校でも同じように役立っています』と言われると、クラブをやっていて良かったなと思いますね」

【戸田クラブ提供】

存在価値をどこに見出し、選手や保護者と一緒につくり上げていくか。中学野球の“受け皿”となり、高校進学後を見据えて十分にプレーできる基礎を養わせていく。
軟式チームとして独自の価値を醸成できているからこそ、戸田クラブには市外からも選手がやって来るのだろう。


(文・撮影:中島大輔)
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