今日の推しメン#006「騙されて始めたのに、ジャージーを着て寝るほどラグビーが好きになった」 山﨑洋之

チーム・協会

写真:せきねみき 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの選手やスタッフを“思わず推したくなるエピソード”について紹介する連載インタビュー「今日の推しメン」。第6回はウィングの山﨑洋之(やまさき・ひろゆき)選手に登場いただきました。力強くしなやかなランで観客を魅了する山﨑選手が、2023-24シーズンで自身の成長を実感できた点とは――。

ウィングはライバルが多く、試合に出ることが何よりも難しい

5月4日に行われた2023-24シーズン最終戦。初戦では大差で負けてしまった東京サントリーサンゴリアス相手に26対45で勝利し、スピアーズは次シーズンにつながる有終の美を飾りました。勝利をたぐり寄せた立役者の一人が山﨑選手です。

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

「後半40分のホーンが鳴った後、チーム全員がセームページ(=同じ絵)を見ていました。マイボールスクラムからタッチに蹴り出してノーサイドではなく、執念を燃やしてもう1本トライを取るという絵です。相手がボールを取り返しにくるなか、フォワード陣が安定したスクラムでボールを出し、バックス陣が阿吽(あうん)の呼吸でつないたボールを僕がインゴールにキックしました」。山﨑選手は無我夢中でそのボールを追いかけてダイブ。TMOの末、ペナルティトライ(認定トライ)が与えられたのです。

最後の最後までトライをあきらめなかった山﨑選手は、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に選ばれました。「POMはなかなか取れるものではないので、改めて両親と妻に感謝しました。両親のおかげでこれまでラグビーを続けられましたし、妻にはいつもサポートしてもらっています。トライもできて、少しはいいところを見せられたかな」と笑顔を見せます。

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

2023-24シーズンで山﨑選手が最も印象に残っている試合は、3月22日の第11節・埼玉ワイルドナイツ戦。

「その前のシーズンは試合に出られておらず、およそ1年半ぶりとなる公式戦出場だったんです。しかも、ナイター戦に出場するのも初めて。いろんな意味で忘れられない試合です。スコアは22対55と大差がつきましたが、まったく歯が立たなかったかというと、そうではなかった。強豪のワイルドナイツが相手でも戦える、と前向きな気持ちになれました」

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

スピアーズでは、ウィングのポジション争いは熾烈を極めています。「こうが(根塚洸雅選手)、はると(木田晴斗選手)、レオ(松下怜央選手)、かんじ(二村莞司選手)、前まではDoさん(近藤英人選手)やスリュン(金秀隆選手)もいました。レベルの高い選手がたくさんいる中で、試合に出ることが何よりも難しいことでした。僕はアピール不足というか、性格的に遠慮してしまうところがあるので、いい意味で自分を出すのが上手なメンバーを見習いたいです」

フラン・ルディケヘッドコーチからは、ワイルドナイツ戦のパフォーマンス次第で今後の試合に出られるか決まると言われていた山﨑選手。その後、第14節・コベルコ神戸スティーラーズ戦、第15節・三重ホンダヒート戦、そして前述の最終節・東京サントリーサンゴリアス戦で見事先発出場を果たしました。

山﨑選手が2023-24シーズンを経て、自身が成長できた点はどこかを尋ねました。「例えば相手が前に来たら後ろに蹴る、相手が下がったら前に出るなど、その場を見て瞬時に次の最適なプレーを選択しますが、その判断力が上がったことです。僕たちはこれを『ライブチェック』と呼んでいて、チーム内で判断して攻撃するという練習を繰り返してきました。ミーティングでは、さまざまな意見や考え方をフィードバックしてもらえて有意義なシーズンになりました」

練習前夜からラグビーのことで頭がいっぱいだった少年時代

山﨑選手がラグビーを始めたのは、小学生に上がる直前のタイミングでした。「当時、僕はサッカーか野球のどちらかを習いたいと思っていました。父に『サッカーやるぞ!』と言われて、2人の兄とついていったら、なんとそこはラグビーグラウンド。完全に騙されましたが、そのまま兄と一緒にラグビースクールに入り、今に至ります」

右から三男:山﨑洋之選手、長男:優、次男:翔太、写真提供:山﨑洋之選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

そんな思いがけない流れでラグビーを始めたにもかかわらず、「ラグビーが好きでたまらなかった」と山﨑選手は話します。

「当時どれぐらい好きだったかというと、練習の前日の夜、ラグビーの格好をして寝ていたほどです(笑)」

ラグビーを始めてしばらくは、怖いものなしだったという山﨑選手。「今では考えられないのですが、最初の1年間はディフェンスが得意で、特にタックルをほめられていました。ところが小2になると、原因はいまだに不明ですが、急にタックルが怖くなってしまったんです。そこからアタック色が強くなっていきました。ボールを持って動くのが好きでしたね」

写真提供:山﨑洋之選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

中学生でもクラブチームでラグビーを続け、高校はお兄さんと同じ福岡県立筑紫高等学校(以下、筑紫)に進学します。「実は昔から東福岡のファンなんです。それでも2歳上の兄・翔太と一緒に花園に出たい気持ちが強く、兄の背中を追って筑紫を選びました。中学校では生徒会の副会長をして、推薦で高校に入学しました」

お兄さんと一緒に花園に出場することはかなわなかったものの、3年生で念願の花園を経験。山﨑選手は高校時代を振り返り、「結果的に筑紫を選んでよかった」と言います。「“たられば”ですが、強豪チームで揉まれていたら芽が出なかったかもしれません。筑紫は部員数がそこまで多くないのもあり、比較的出場機会が得られ、そこで結果を出して実績を積めたのは大きかったと思います」

チームのために体を張る覚悟が足りないと気付いた

大学ではあえてお兄さんと別の進学先を選択し、明治大学へ進みます。「これまでは、よくも悪くも“山﨑翔太の弟”と認知されている中でラグビーをしてきました。その環境から離れて、どこまで通用するのか試したいという気持ちが芽生えたんです」

山﨑選手は「朝6時半から毎日きつい朝練をした後に、寮住まいのチームメイトと話をしながら食べる朝ごはんは格別。大変なこともありましたが、圧倒的に楽しさのほうが勝っていました」と振り返ります。

小2以降突然怖くなったタックルは、大学に入ってからもなかなかできなかったという山﨑選手。大学時代に、筑紫から一緒の先輩・鶴田馨選手(レッドハリケーンズ大阪所属)から、現在の山﨑選手の座右の銘となる言葉をもらったそうです。

「彼は『自分の体を大事にするか、それともチームの勝利のために体を張るか。どっちを選ぶのか?』と僕に問いかけました。自分の体よりも名誉が大事なら、その名誉のために体を張れと言われて、自分には覚悟が足りないことに気付いたのです」。これを機に、タックルに行けるようになったという山﨑選手は、自身を鼓舞するためのお守りとして「命を惜しむな、名を惜しめ」の言葉を胸に刻んでいます。

明治の4年間では、酸いも甘いも経験。「大学日本一を経験した年もあれば、準優勝で終わった年も2回ありました。全国各地から集まったメンバーと過ごした時間は、ものすごく濃密でした」

写真提供:山﨑洋之選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

ジャージーに袖を通して試合に出ている姿を、家族に見てほしい

山﨑選手がスピアーズに入った理由を聞くと、「声をかけてくださったリクルーターの前川(泰慶)さんの存在が大きかった」と教えてくれました。

「前川さんの立ち振る舞いを見て、『こんな素晴らしい人がいるチームや会社に行きたい』と強く感じました。実際にスピアーズに入団してから、全員がいい人で驚きましたし、妻も『僕の周りにはいい人しかいないね』と言っているほどです」

入団5年目の山﨑選手は年次を重ねるにつれ、感じていることがあるといいます。「尊敬するハルさん(立川理道キャプテン)やナード(バーナード・フォーリー選手)のリーダーシップや雰囲気づくりのおかげで、僕ら後輩が発言しやすくなり、チーム全体の雰囲気がよくなっています。先輩方が築き上げてくださったこの環境を下の世代に浸透させ、継承することが、今後の僕の役目だと思っています」

撮影:せきねみき 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

山﨑選手は今年6月に男の子のパパになったばかり。「来季もスピアーズのジャージーに袖を通して試合に出たい。プレーしている姿を妻と息子に見せられたら」と気持ちを奮い立たせます。

インタビュー中、丁寧に言葉を選び、一つ一つの質問に真摯に答えてくださった山﨑選手。バランス感覚に長け、聡明な一面を垣間見ました。先輩や後輩、コーチとの架け橋的存在として、これからのスピアーズを力強く引っ張ってほしいと願っています。

取材・文:せきねみき(ライター・コラムニスト)
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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