今日の推しメン#006「騙されて始めたのに、ジャージーを着て寝るほどラグビーが好きになった」 山﨑洋之
写真:せきねみき 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
ウィングはライバルが多く、試合に出ることが何よりも難しい
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
最後の最後までトライをあきらめなかった山﨑選手は、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に選ばれました。「POMはなかなか取れるものではないので、改めて両親と妻に感謝しました。両親のおかげでこれまでラグビーを続けられましたし、妻にはいつもサポートしてもらっています。トライもできて、少しはいいところを見せられたかな」と笑顔を見せます。
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
「その前のシーズンは試合に出られておらず、およそ1年半ぶりとなる公式戦出場だったんです。しかも、ナイター戦に出場するのも初めて。いろんな意味で忘れられない試合です。スコアは22対55と大差がつきましたが、まったく歯が立たなかったかというと、そうではなかった。強豪のワイルドナイツが相手でも戦える、と前向きな気持ちになれました」
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
フラン・ルディケヘッドコーチからは、ワイルドナイツ戦のパフォーマンス次第で今後の試合に出られるか決まると言われていた山﨑選手。その後、第14節・コベルコ神戸スティーラーズ戦、第15節・三重ホンダヒート戦、そして前述の最終節・東京サントリーサンゴリアス戦で見事先発出場を果たしました。
山﨑選手が2023-24シーズンを経て、自身が成長できた点はどこかを尋ねました。「例えば相手が前に来たら後ろに蹴る、相手が下がったら前に出るなど、その場を見て瞬時に次の最適なプレーを選択しますが、その判断力が上がったことです。僕たちはこれを『ライブチェック』と呼んでいて、チーム内で判断して攻撃するという練習を繰り返してきました。ミーティングでは、さまざまな意見や考え方をフィードバックしてもらえて有意義なシーズンになりました」
練習前夜からラグビーのことで頭がいっぱいだった少年時代
右から三男:山﨑洋之選手、長男:優、次男:翔太、写真提供:山﨑洋之選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
「当時どれぐらい好きだったかというと、練習の前日の夜、ラグビーの格好をして寝ていたほどです(笑)」
ラグビーを始めてしばらくは、怖いものなしだったという山﨑選手。「今では考えられないのですが、最初の1年間はディフェンスが得意で、特にタックルをほめられていました。ところが小2になると、原因はいまだに不明ですが、急にタックルが怖くなってしまったんです。そこからアタック色が強くなっていきました。ボールを持って動くのが好きでしたね」
写真提供:山﨑洋之選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
お兄さんと一緒に花園に出場することはかなわなかったものの、3年生で念願の花園を経験。山﨑選手は高校時代を振り返り、「結果的に筑紫を選んでよかった」と言います。「“たられば”ですが、強豪チームで揉まれていたら芽が出なかったかもしれません。筑紫は部員数がそこまで多くないのもあり、比較的出場機会が得られ、そこで結果を出して実績を積めたのは大きかったと思います」
チームのために体を張る覚悟が足りないと気付いた
山﨑選手は「朝6時半から毎日きつい朝練をした後に、寮住まいのチームメイトと話をしながら食べる朝ごはんは格別。大変なこともありましたが、圧倒的に楽しさのほうが勝っていました」と振り返ります。
小2以降突然怖くなったタックルは、大学に入ってからもなかなかできなかったという山﨑選手。大学時代に、筑紫から一緒の先輩・鶴田馨選手(レッドハリケーンズ大阪所属)から、現在の山﨑選手の座右の銘となる言葉をもらったそうです。
「彼は『自分の体を大事にするか、それともチームの勝利のために体を張るか。どっちを選ぶのか?』と僕に問いかけました。自分の体よりも名誉が大事なら、その名誉のために体を張れと言われて、自分には覚悟が足りないことに気付いたのです」。これを機に、タックルに行けるようになったという山﨑選手は、自身を鼓舞するためのお守りとして「命を惜しむな、名を惜しめ」の言葉を胸に刻んでいます。
明治の4年間では、酸いも甘いも経験。「大学日本一を経験した年もあれば、準優勝で終わった年も2回ありました。全国各地から集まったメンバーと過ごした時間は、ものすごく濃密でした」
写真提供:山﨑洋之選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
ジャージーに袖を通して試合に出ている姿を、家族に見てほしい
「前川さんの立ち振る舞いを見て、『こんな素晴らしい人がいるチームや会社に行きたい』と強く感じました。実際にスピアーズに入団してから、全員がいい人で驚きましたし、妻も『僕の周りにはいい人しかいないね』と言っているほどです」
入団5年目の山﨑選手は年次を重ねるにつれ、感じていることがあるといいます。「尊敬するハルさん(立川理道キャプテン)やナード(バーナード・フォーリー選手)のリーダーシップや雰囲気づくりのおかげで、僕ら後輩が発言しやすくなり、チーム全体の雰囲気がよくなっています。先輩方が築き上げてくださったこの環境を下の世代に浸透させ、継承することが、今後の僕の役目だと思っています」
撮影:せきねみき 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
インタビュー中、丁寧に言葉を選び、一つ一つの質問に真摯に答えてくださった山﨑選手。バランス感覚に長け、聡明な一面を垣間見ました。先輩や後輩、コーチとの架け橋的存在として、これからのスピアーズを力強く引っ張ってほしいと願っています。
取材・文:せきねみき(ライター・コラムニスト)
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ