フロンターレを食から支える食堂(前編)

川崎フロンターレ
チーム・協会

【©KAWASAKI FRONTALE】

プロサッカー選手が練習後の昼食になにを食べているのか気になったことはありませんか? その全容を収めた動画がフロンターレ公式YouTubeチャンネルにて公開されました。より動画を楽しんでいただくために、クラブハウス食堂の調理を担当されているエームサービス株式会社の公認スポーツ栄養士の梶原一美さんと、シェフの坂井建太さんにお話を聞きました。前編となる今回は食堂での業務について、後編は皆さまでも真似できる栄養管理や調理の方法をお伝えします。

シーズンを通して安定したパフォーマンスを継続できるように

クラブハウス内の食堂の様子。これから選手たちが続々と来るので準備中! 【©KAWASAKI FRONTALE】

──まず、エームサービスとはどのような会社なのでしょうか。

梶原「オフィスや工場、病院・高齢者向け施設、学校、会議・研修施設、スタジアムのエンターテインメント施設においてフード&サポートサービスやリフレッシュメントサービス事業を展開し、グループでは全国約3,900カ所の施設において、1日約130万食を提供している会社です。また、フロンターレ以外でも、弊社では野球、陸上、競泳、バスケットボール、公営競技など、トップアスリートから学生まで、幅広い層の選手たちへの栄養教育を行っています」

──フロンターレでは2019年4月にクラブハウスに食堂が完成したときからサポートを開始していますが、気をつけていることや意識していることはありますか?

梶原「競技力向上のためのアスリート食の提供を主軸としています。そのなかで食べておいしい、食事が楽しいと感じていただきながら、なぜこの食事なのかを自然に学んでいただける栄養教育を実施し、最終的には、あらゆる食環境や、例えばキャンプや遠征先などでの食事のとり方や、1人暮らしの食事を自己管理ができるようにと意識しています。また、試合期は過密スケジュールになることも多いので、シーズンを通して安定したパフォーマンスを継続できるように、疲労回復を早めることを目的として、糖質摂取や鉄やカルシウム・ビタミンDなどの栄養素にも着目しメニュー作りをしています」

──梶原さんと坂井さんはそれぞれ、どのような業務をしているのでしょうか。

梶原「栄養士なので、メニューの全般の管理や選手のサポート、掲示物の作成をしています。また、期限付き移籍をしている選手に対し、どんな食事をしているのかを確認し定期的にアドバイスをしたり、チームを離れて日本代表などの活動に参加する若手の選手にも同様のサポートをしています」

坂井「自分は調理の全般を担当しています。お昼ご飯の料理を私が調理し、他の社員やパートの皆さまが盛り付けをして提供するという流れですね。あとはメニューの骨組みを作っています。最終確認は栄養士の梶原さんにお願いをしているのですが、そのなかでも調理師目線から『こういったメニューをやりたい』と伝えるようにしています。また、食材の仕入れやメニューの提案もしています」

考え抜かれた日々の定食メニュー

食堂内にある週間の献立表 【©KAWASAKI FRONTALE】

──食事のメニュー決定はどのように決めているのでしょうか。

梶原「トレーニング後に早く疲労回復や筋肉修復などができるメニュー構成を考えています。クラブハウスの食堂で、スポーツ栄養学に基づいた設定で『主食・主菜・副菜・汁物・乳製品・果物』を揃えた定食スタイルをベースとしています。その他には、納豆やその日の定食で特に強化してほしい栄養素を、自由にとれる副菜として用意しています。乳製品は牛乳のほかスムージーやお酢ドリンクなど飲みやすい形にして準備しているので、選手に選んでいただけるようにしています」

──強化してほしい栄養素というものがあるのですね。

梶原「メニューを作成しているとお昼1食分の定食ではスケジュールに応じた栄養補給が体格差によって少し難しくなるときもあり、選手それぞれの状況に対応するため、より強化してほしい栄養素を自由にとれる1品をとしてご提供しています」

──メニューの骨組みを坂井さんが作っていると思いますが、色んなことを考えながらやっているんですね。

坂井「そうですね。まずは被りがないように心がけています。食事は毎日欠かせないものですので、同じ肉や魚が続いたり、同じ味付けにならないようにバランスのとれた食事メニューを組んでいます。そのバランスがいい食事というのが主食・主菜・副菜・汁物・乳製品・果物を揃えることです。最終的に梶原さんに確認をしてもらい定食が出来上がります」

──トレーニング後、すぐに炭水化物(糖質)を摂ることが疲労回復や筋肉修復につながっていくと思います。選手それぞれで炭水化物を摂る量は変わってくるのでしょうか。

梶原「選手の身体組成や運動量により変わってきます。ご飯の量などのエネルギー設定は、体組成の推移と練習強度から給与栄養目標量を3500kcalと設定しています。その他の栄養素設定は、スタッフの皆さまにご相談のうえ設定しています」

──試合に近付いてくるとメニューも変わってきますか?

梶原「試合前には、高糖質・低脂質のメニュー作成を心がけています。過密スケジュールになることも多いので、疲労回復を早める目的の1つとして、糖質を摂取してもらうためのメニュー作りをしています。白いご飯の日はご飯が進むように主菜やご飯のお供、丼ぶりメニューや麺類とおにぎりを組み合わせるなど工夫しています」

選手を笑顔にさせる定食の数々

選手たちを笑顔にさせる食事の時間。高井幸大選手、いい顔しています 【©KAWASAKI FRONTALE】

──メニューなどで選手からリクエストをもらうこともあるのでしょうか。

梶原「オムライスが食べたいなどリクエストをもらったこともあります。基本的に選手の皆さまは『おいしい』などと感想も言っていただけているので『特にこれが』というのはあまりないです(笑)」

坂井「『カレーは次いつ?』など、人気メニューは聞かれることが多いですね」

梶原「鯖麻婆豆腐は週に1回出してほしいとかという話も出ています(笑)」

坂井「リクエストはありますが、新たにこれを食べたいというのはあまりないです。ですので、こちらから選手の反応も見ながら新しいメニューを提案していきたいです」

──選手から評判のメニューはなんでしょうか。

梶原「先程も言った鯖麻婆豆腐と牛すじカレーです。登里選手が牛すじカレーが大好きで、ずっと言ってくれていますよね?(笑)」

坂井「登里選手は食事後、必ず『おいしかったです』と声をかけてくださるので、こちらとしても励みになりますし、おいしい料理を提供していきたいと思っています」

梶原「先月の、牛すじカレーはおかわりをしていただけました(笑)」

──そんなフロンターレの選手たちは栄養に対する意識が高い印象を受けます。

梶原「フロンターレの選手の皆さまはすごく意識が高いと思います。基本的には好き嫌いをせずに残さず食べていただけますし、自分のコンディションを考えて、ご飯の量を決めることもそうだし、フィジカルと栄養の結びつきを理解している選手が多いです」

──アドバイスをすることもあるのでしょうか。

梶原「基本的には質問があった選手に対しお答えさせていただき、また、チームスタッフと連携するなかで、この選手をサポートしてほしいとご要望をいただくこともあります。ベテランの選手はすごく意識が高く、経験豊富ですので、新加入の選手をメインにアドバイスさせていただくことが多いです」

──選手それぞれの体によってメニューを変えたりすることはありますか?

梶原「選手によってメニューを変えたりすることはありません。体格差はご飯量や自由にとれる副菜類で調整しています。血液検査の結果などをみて、例えば鉄の多い食品など、自宅でも作れるレシピなどをお渡しさせていただいていることもあります」

モバフロのブログで毎日のメニューを公開中 【©KAWASAKI FRONTALE】

──フロンターレの公式アプリ「モバフロ」で2月からブログが始まりました。数多くのコメントもたくさん届いていますが、やり始めて見てどのような感想をお持ちですか?

梶原「色んな方からコメントをいただけると思っていなかったのでうれしい限りで、私たちにとってもさらに励みになります。これからも、選手やスタッフの皆さまに喜んでいただくことはもちろん、美味しく楽しめるアスリート食を提供し、さらにサポーターの皆さまにも楽しんでもらえるようにできたらと思います」

坂井「このブログは自分自身のモチベーションアップにつながっています。コメントが励みになりますし、見られているからこそ、新しいメニューにも日々挑戦をしながら、知識を深め、サポーターの皆さまにも見て楽しんでもらえるようなメニューを作っていきたいと思います。イベント食なども今後は増やしていければと思っていますし、皆さまにどんどん発信していきたいです」

YouTube撮影時の一コマ。この日は瀬川祐輔選手の誕生日でした 【©KAWASAKI FRONTALE】

──また、川崎フロンターレ公式YouTubeチャンネルでも密着動画が公開されました。色んな人に見ていただけると思いますが、注目してほしい点はありますか?

梶原「選手たちが練習後にどんな食事をしているのか、それがどのように作られているのかを見ていただきたいです。私たちは目立たなくていいです(笑)」

坂井「選手の活躍の裏に、このような仕事もあるということを知ってもらえるだけでも、ありがたいことです。少しでも多くの人に見てもらえたら嬉しいです」

梶原「とても楽しい雰囲気で動画が始まっていきます。サポーターの皆さまにもぜひ楽しんでほしいです!」

(後編へ続く)

(取材:高澤真輝)

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■PROFILE

梶原一美(かじはら・かずみ)

【©KAWASAKI FRONTALE】

社員食堂や病院・高齢者施設、学校、スポーツ施設などで、「食」を通じて、あらゆる世代の健やかで豊かな暮らしをサポートするエームサービス株式会社の公認スポーツ栄養士。2022年から麻生グラウンドの食堂を担当し、選手たちの昼食メニューを考案。また栄養面で選手の管理やアドバイスを行い、チームを栄養面から支えている。

坂井建太(さかい・けんた)

【©KAWASAKI FRONTALE】

社員食堂や病院・高齢者施設、学校、スポーツ施設などで、「食」を通じて、あらゆる世代の健やかで豊かな暮らしをサポートするエームサービス株式会社のシェフ。星付きレストランで働いていた経歴を生かしながら、こだわり抜かれた調理で選手たちの舌を唸らせている。
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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