フロンターレを食から支える食堂(後編)

川崎フロンターレ
チーム・協会

【© KAWASAKI FRONTALE】

プロサッカー選手が練習後の昼食になにを食べているのか気になったことはありませんか? その全容を収めた動画がフロンターレ公式YouTubeチャンネルにて公開されました。より動画を楽しんでいただくために、クラブハウス食堂の調理を担当されているエームサービス株式会社の公認スポーツ栄養士の梶原一美さんと、シェフの坂井建太さんにお話を聞きました。前回は食堂での業務についてお話いただきましたが、今回は皆さんでも真似できる栄養の摂り方や調理の方法をお伝えします。

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「見た目でおいしさを伝えて食べてもらうことが大事」(坂井)

調理をする坂井さん 【© KAWASAKI FRONTALE】

──食堂で食事を提供するとき、調理方法の工夫していることはなんでしょうか。

坂井「サラダを毎日出しているのですが、トマトが食べられない選手もいました。切り方を変え、それまでは大きくカットしていたものを細かくダイス型にカットすることで食べられるようになる選手もいました。あとは葉物のなかに細かくスライスしたにんじんを混ぜ込んでサラダにすると、にんじんが苦手でも食べてもらえるということもあります。なるべく残食がなく栄養素を摂ってもらえるように工夫をしています。食欲が落ちる夏場には、大きいカットだと、それだけで食欲が落ちてしまうこともあるので、細かくカットして提供するようにしています。一般のご家庭でも、子どもが食べられないものを、細かく混ぜ込むことで知らず知らずのうちに克服できるということもあるのかなと思います。

──そういった見た目も大事にしている点なのですね。

梶原「見た目はとても意識しています」

坂井「見た目でおいしさを伝えて食べてもらうことが大事です。そのためには彩りが大事なので、気にしながら調理をするようにしています。色の華やかさや、同じ色ばかりだと少し地味だなとか。よく言われていますが、黄色・緑色・赤色をメニューに散りばめるように心がけています。これは、ぜひご家庭でもやってみてほしいですね」

梶原「あと調理法にも気をつけています。茹でる、焼く、蒸す、煮る、炒める、焼く、揚げるなどで同じ肉や魚料理でも脂質やエネルギー量が変わるので、メニューによって工夫しています。クラブハウスの食堂では、ノンフライの揚げ物を提供しています。フライほど油を使わなくても、揚げ焼きにするだけでも十分おいしいですよね?」

坂井「そうですね(笑)。多分、言われないと分からないくらいのクオリティだと思います」

梶原「バラ肉は脂質が高いので、使わないようにしています。それにバラ肉を使わなくてもウチのシェフがうまく柔らかく作ってくれています」

坂井「そこは火を入れ過ぎないように意識していますし、あとは出来たてを提供できるようにしています。時間が経ってしまうとどうしてもお肉が固くなってしまいますので、なるべく選手が来たタイミングで完成するように時間を調整しながら調理をしています」

──火の入れ方で変わるんですね。

坂井「野菜炒めなどの炒めものに関しては強火でサッと炒めたほうが余計な水分が出ないので、しっかりと味が中に入っていきます。そういったところは気をつけながらやっています」

3食しっかり食べることがとても大事

小林悠選手もしっかりご飯を食べてトレーニングに励んでいます 【© KAWASAKI FRONTALE】

──スポーツをしている子どもがご家庭で意識できることはありますか?

坂井「日々バランスよく摂ってもらいたいです。まずは3食しっかり食べてもらうことと、食べる時間も気にしてほしいです。毎回同じ時間で食べてもらうのが1番。食べる時間が遅くなってしまうと、そこでバランスが崩れてしまうので、そういったところは気にしながら食べてもらえるのがいいかなと思っています」

梶原「基本的に朝昼晩と食べる習慣が大切です。朝起きて日を浴びてご飯を食べて、体内時計が整います。人間の身体は食べたものから作られ、食べたものでしか動かないので、毎日3食食べることを意識してほしいです。また、子どもたちは苦手なことも練習してがんばったりしていますよね。勉強も苦手なものに対してがんばっていると思います。これはご飯も同じです。食事もトレーニングの一環として、苦手な食べ物も頑張って食べて好き嫌いなく楽しく食事をしてほしいです。また、夜遅くまでスポーツを頑張っているお子さんも多いと思いますが、睡眠時間は十分に確保してほしいです。睡眠不足によって朝食欠食が問題になっています。成長期の身体にエネルギーや栄養素が不足しないよう3食しっかり食べることがとても大事なんです」

──朝食を何品も作って食べるのは簡単ではないですよね…。

梶原「もちろんバランスのいい食事は『主食・主菜・副菜・汁物・乳製品・果物』が揃っていることですが、それを朝から揃えるのは難しいと思いますので、1個皿にギュッとまとまった、例えば麺類なら豚汁うどんにして主食と副菜を1皿でとることができます。あとは乳製品と果物なので、フルーツヨーグルトにするのもいいと思います。さらに野菜や果物を作るスムージーはおすすめです。全部のお皿を揃えることが基本ですが、お皿の数を重視するのではなく、1皿にまとめてとることができます」

──成長期の子ども達に必要な栄養を簡単に摂れる食材、調理方法などはありますか?

梶原「主食をしっかり食べることが一番です。1日に摂取するエネルギー量のうち、半分は主食です。主食が不足してしまうとエネルギー不足になる可能性もあるので、フロンターレの選手たちと同じく、ご飯をしっかり食べてください。また主菜(たんぱく質)は毎食入れて、朝食がパン1枚ということが無いようにして欲しいと思います。カルシウムや鉄といった微量栄養素は乳製品や赤身のお肉、魚、レバーなどで摂れます。こちらは主菜に様々なたんぱく質源を使うことでクリアできます。スーパーで食材を選ぶときに素材の『色』にも意識していただければなと思います」

──一般のご家庭でも実践できそうなメニューや食材の保存方法はありますか?

梶原「弊社のママ栄養士にヒアリングしたことがあるのですが、具沢山の汁物は野菜が苦手なお子さんでも食べやすく、調理する品数を減らせるので、取り入れている人が多かったです。汁物に野菜だけでなく、たんぱく質源を入れると旨味が増します。また、無水カレーも人気でした。カレーの具材を煮込むときにトマトジュースを使用したり、にんじん、たまねぎ、ホールトマトをミキサーにかけたものを煮汁に使用したりするだけで、栄養密度満点のカレーが簡単にできます。下ごしらえに関しては、SNSなどでも多く発信されていますが、肉や魚は塩麴などお肉を柔らかくしてくれる調味料と一緒に混ぜ込んでおくと柔らかく仕上がるのでおすすめです。塩麴以外にカレー粉や焼き肉のたれといった別の調味料を追加することで味のバリエーションが広がります」

「チームのために縁の下の力持ちとしてがんばっていきたい」(梶原)

フロンターレを支えている欠かせない存在 【© KAWASAKI FRONTALE】

──このような豊富な知識のあるお二人はどんな食事をしているのでしょうか。

坂井「この職についてから栄養について考えるようになりました。実際にここで提供するメニューに関しても自分の家で試してみて、味を確認してから提供することもあります。レシピだけでは味の想像がつかないこともありますので、そういうときは食材を購入し、自分で試してみて、味を調整したりするようになりました」

梶原「1日3食、何でも食べますが、食べる量や質、時間などは意識するようにしています」

──では、最後に食事からフロンターレをサポートしていくうえで、今後の抱負を聞かせてください。

梶原「選手がベストコンディションで試合に臨めるように、練習後に疲労回復できるメニューを作ることはもちろん、食堂で楽しく美味しく食べてもらえるようなメニュー、そして環境づくりを引き続きしていきたいです。食堂スタッフ一同、チームのために縁の下の力持ちとしてがんばっていきたいです」

坂井「まずは選手に怪我なくプレーしてもらうこと、そしてチームが勝つこと。最終的にはチームの目標であるタイトル奪還につながるように、食堂のメンバー全員がフロンターレの一員として、これからもおいしく、安全な料理を提供できるように日々努力していきたいと思っています」

(取材:高澤真輝)

■PROFILE

梶原一美(かじはら・かずみ)

【© KAWASAKI FRONTALE】

社員食堂や病院・高齢者施設、学校、スポーツ施設などで、「食」を通じて、あらゆる世代の健やかで豊かな暮らしをサポートするエームサービス株式会社の公認スポーツ栄養士。2022年から麻生グラウンドの食堂を担当し、選手たちの昼食メニューを考案。また栄養面で選手の管理やアドバイスを行い、チームを栄養面から支えている。

坂井建太(さかい・けんた)

【© KAWASAKI FRONTALE】

社員食堂や病院・高齢者施設、学校、スポーツ施設などで、「食」を通じて、あらゆる世代の健やかで豊かな暮らしをサポートするエームサービス株式会社のシェフ。星付きレストランで働いていた経歴を生かしながら、こだわり抜かれた調理で選手たちの舌を唸らせている。
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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