「スポーツ界に、イノベーションが生まれる好循環を。」 SPORTS TECH TOKYO プログラムオーナー中嶋文彦氏の視界に迫る。

SPORTS TECH TOKYO
チーム・協会

【SPORTS TECH TOKYO】

スポーツ界をリードする「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」のメンターを訪ね、過去・現在・未来に迫るとともに、スポーツビジネス最先端の可能性と課題を紐解く特別インタビュー企画。

 第6弾は、SPORTS TECH TOKYO プログラムオーナーであり株式会社電通 事業共創局チーフ事業開発ディレクターの中嶋文彦氏をお招きし、これまでのキャリアやスポーツとの接点、スポーツ界やオープンイノベーションに対する課題意識等、INNOVATION LEAGUEの今後について意見を聞いた。

【中嶋 文彦(なかじま ふみひこ)】

PROFILE
中嶋 文彦(なかじま ふみひこ)

電通で国内外クライアントのブランド戦略を担当。退職後アイ・エム・ジェイでネットマーケ部門運営、子会社役員、親会社CCCのECアフィリエイト事業の開発などを行う。2008年末に電通再入社。現在は電通とパートナーの事業開発、投資、スタートアップとの事業連携など。電通イノベーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」プロジェクトオーナー。羽田空港のロボット実証/実装プログラム「Haneda Robotics Lab」、ソニー・ミュージックの新規事業開発プログラム「ENTX」などの企画・運営、北海道7空港民営化事業への事業投資など、様々な事業開発の経験を有する。また2020年からはスポーツ庁のイノベーションプログラム「INNOVATION LEAGUE」の運営にも参画する。

スポーツの“熱狂”をビジネスに転換するチャレンジを。

まず初めに、中嶋さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

 1995年に電通に入社し、国内外企業のブランドおよびメディア戦略を担当しました。2004年頃「時代はインターネットだ!」と潮流を感じ、アイ・エム・ジェイ(現アクセンチュア)に転職し、3年ほどマーケティング部門の運営や子会社の役員、親会社であるCCCグループのTポイントECモールの事業開発などに関わりました。その後2008年末に電通に再入社をし、大手企業のグローバルフォトサービスの企画・開発・運用を行ったり、データ企業と位置情報データサービスの事業、ネット広告企業とリワード広告の事業などを行いました。現在は先端領域で電通とパートナー企業による事業開発、投資、スタートアップとの事業連携などを広く担当しています。基本的には複数の企業や人を集めて、何かテーマのもとに新しいバリューを生み出す事業取り組みをこの10年ほどしています。

 若手営業マンの頃から幸運にもスポーツビジネスに関わる場面が度々ありました。ゴルフトーナメントの運営、サッカーの国際試合のマーケティング、野球の新規参入球団のプロモーション、格闘技の営業支援、スポーツ衛星放送の番組等、運営や営業、マーケティング支援でプロスポーツに関わらせていただきました。


SPORTS TECH TOKYOを立ち上げた経緯について教えてください。

 2018年、スポーツのモメンタムが高まるタイミングで新たな事業開発を進めたいと思い、連続的にビジネスが生まれる場所を作りたいと考え、以前から交流があったScrum Venturesの宮田氏と会話をしました。「スポーツ」というと多くの人は競技スポーツを想起しがちですが、幅広い産業に渡るビジネスを生み出す広義の「スポーツテック」と捉え、スポーツの持つ「熱狂」や「広がり」を活用した新たなビジネス開発を志向したいと。また個社ではなくオープン型など時代にあったスタイルも念頭にありました。

 ソフトバンク、楽天など巨大企業が先駆け的存在ですが、2018年頃から大手IT企業のスポーツ界への参入が加速したこともあり、スポーツ×テクノロジーは波及度が高いテーマとしてインパクトが出せるのではないかとSPORTS TECH TOKYOを立ち上げました。

【SPORTS TECH TOKYO】

予期せぬ形でコロナの影響を受ける形にはなりましたが、この3年間でどのようなプロジェクト進捗がありましたか?

 元々SPORTS TECH TOKYOはビジネス開発プラットホームの形を想定しており、参画する方々も増え、個別のプロダクト開発や協業、企業のDX支援など着実に進んでいます。イノベーション支援、アクセラレーション、スタートアップ支援の経験やノウハウはこの3年間で一定以上蓄積することができています。インバウンドで事業開発をやってほしい、支援してほしいといったリクエストも増えてきたのは成果と考えています。今後はさらにプラットフォームの拡大や有力企業、スタートアップ、VCとの連携、機動的な支援、協業体制などを進めたいと思います。

一定の成果を得た、初年度のINNOVATION LEAGUE。

SPORTS TECH TOKYO設立後、それに続く形でINNOVATION LEAGUEも誕生しましたが、その経緯についても教えてください。

 スポーツ拡張の支援プログラムが増えてきている中で、スポーツ産業内外のネットワークを急速に広げ、直接的なインパクトが出せる事業を進めたいと考えている中、スポーツ庁のSOIP(スポーツ・オープン・イノベーション・プログラム)事業に出会いました。そこからINNOVATION LEAGUEの構想を練っていきました。SPORTS TECH TOKYOと同様、スポーツの拡張となる設計に留意し、INNOVATION LEAGUEがハブとなりスポーツを軸とした新たなエコシスエムや事業創出の仕組みを作っていきたい狙いです。

【SPORTS TECH TOKYO】

INNOVATION LEAGUE アクセラレーションについて、昨年度の手応えや課題は?

 初年度は視聴体験やファンエンゲージメントの拡張の有望プロダクトを採択しました。
急成長する領域での刺激的で優れた方々とご一緒できました。またアクセラレーションに臨むにあたって、参画いただいた競技団体やリーグの担当者が変革を志向する、経験豊富なビジネスマンだったことは大きかったです。スポーツビジネスを拡張しようとするビジョンが共有できている方々と協業できたことに加え、業界のトップランナーのメンター陣にも伴走いただき、業務提携や採択などの良い成果につながったと思います。https://innovation-league.sportstech.tokyo/achievements/index.html#contest

 何かしらのプロダクトを競技に単純に埋め込むだけならリードタイムは長くは必要ないのですが、このような支援プログラムにはある程度時差が発生すると思っています。例えば支援プログラムの期間内で業務提携の契約が決まることは珍しかったりします。INNOVATION LEAGUEのアクセラレーションに関しては初年度にして、皆さんの熱量の元で一定の以上の様々な成果が出たので、競技団体の皆さんだけでなく、プログラムに参加したスタートアップの方々からもいい評価や前向きなフィードバックをいただきました。

 3人制バスケットボールリーグの3×3.EXE PREMIERはスタートアップのような極めて柔軟度が高く意思決定が早い組織でした。アクセラレーションに参画したスタートアップ側とリーグ側のビジネスのプロトコルが似ていたので、スムーズにプロジェクトが進んだと思います。一方で日本バレーボール協会は半世紀以上の歴史がある中でアクセラレーションの試みに参画いただき、様々な方の努力や創意工夫から、しっかりとした具体的な実証と外部発信ができました。またインキュベーターである電通側のメンバーの奮闘や成長もあり、連携団体、スタートアップともに一定の成果が得られた初年度だったと思います。

【INNOVATION LEAGUE】

本年度のアクセラレーションで達成したいことはいかがでしょうか?

 昨年は初年度だったこともあり、どのように進めるかと探索していた部分もありました。本年度は昨年の経験をもとに、より良い運営ができると思っています。スタートアップにとっては新しいビジネスの兆しやグロースを、競技団体・チーム・リーグにとっては新しいスポーツの在り方、収益の在り方につながる兆しを見出せるような場をスポーツ庁とSPORTS TECH TOKYOで推進していきたいですね。

 このINNOVATION LEAGUEというプログラムは定められた数ヶ月の中で一定の成果や方向付けを行うことを目指しているのですが、そこからより発展させていくために事業内容を深掘りしたり、資金面や人材面でサポートができるようなフォローアップの仕組みがあった方が良いと考えています。スタートアップと競技団体の目線が合わせつつ、設定している短い期間の中で、開発から実装、マネタイズ検証まで到達することは大変です。INNOVATION LEAGUEの事業は短期間かつインテンシブに変革を生み出すようなプログラムを行いながら、そこからいい成果や発展が見受けられるものに関しては、期限を伸ばしたり、多様な支援やリソース提供なども行いながら、スポーツビジネスを真に拡張させられるドライバーになるとよいなと考えています。

スポーツ界に強いアルムナイを創出したい。

INNOVATION LEAGUE コンテストの狙い、立ち上げについても教えてください。

 INNOVATION LEAGUEのコンテストはスポーツの領域で先駆的、先端的な取り組みを行なっている人物や組織を称える賞として設定しました。本コンテストにノミネートされることがモチベーションとなり、事業サイドの方にスポットライトがより当たるような形を作れると、スポーツビジネスに更なる好循環を生み出せのではないかと考えています。

 昨年度は初年度にも関わらず、ありがたいことに個人の方や団体、著名チームや有力フィンテック企業等、優れたアクティベーションや事業展開をしている企業やスポーツ団体から合計100件以上の応募がありました。最終的にはasicsとオルフェの共同開発事業がイノベーション・リーグ大賞を、株式会社ookamiのplayer!がコロナ禍で展開した大会広報のDX化事業がアクティベーション賞を、株式会社シンクのスポーツで災害に強くなる「防災スポーツ」がソーシャル・インパクト賞を、一般社団法人スポーツを止めるなの、コロナ禍での学生アスリートの機会創出支援を行う「スポーツを止めるな」がパイオニア賞を受賞し、とても先駆的で実践的な取り組みをしている方々を称えることができたと思っています。スポーツの拡張の様々な事例を讃え、発信できるプラットフォームにしていきたいですね。

【INNOVATION LEAGUE】

INNOVATION LEAGUE コンテストにおいて、今後より注力したい部分はありますか?

 去年はコロナの影響で表彰式が規模縮小になってしまいましたが、イノベーターとして表彰された方たち同士が繋がるネットワーキングにも意味があると考えています。熱量があって推進意欲が高い方々がつながり、その場に参加することが名誉になるようなコミュニティが生まれてくるといいですね。継続的に優れた事業や人材を輩出する組織は強いアルムナイ=豊かな土壌を持っていますよね。INNOVATION LEAGUEがハブとなり、スポーツ界にイノベーションを生み出す事業や人材、ネットワークを増やしてたいと思います。

【INNOVATION LEAGUE】

現在INNOVATION LEAGUEでは、スポーツやスポーツビジネスにイノベーションを生み出している取り組み、スポーツを活用してビジネスにイノベーションを生み出している取り組み、またスポーツが持つ「産業拡張力」を強く感じさせる事例を表彰する「INNOVATION LEAGUE コンテスト」を実施中!スポーツの可能性を広げる取り組みを、ぜひご応募ください。
https://innovation-league.sportstech.tokyo/contest/index.html#update



執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。

執筆協力:大金拳一郎
フリーランスのフォトグラファーとしてスポーツを中心に撮影。競技を問わず様々なシーンを追いかけている。その傍ら執筆活動も行なっており、スポーツの魅力と美しさを伝えるために活動をしている。


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著者プロフィール

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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