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荒木 重雄

ビジネスとスポーツの両面を知り尽くすスポラボ代表 荒木重雄氏に聞く 「スポーツビジネスを前に進めるドライバーの在り処とは」

SPORTS TECH TOKYO

 スポーツ界をリードする「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション」のメンターを訪ね、過去・現在・未来に迫るとともに、スポーツビジネス最先端の可能性と課題を紐解く特別インタビュー企画。

 第3弾は、株式会社スポーツマーケティングラボラトリー代表取締役の荒木重雄氏をお招きし、これまでのキャリアやスポーツビジネスとの出会い、スポーツ界やオープンイノベーションに対する課題意識等、ビジネスとスポーツを知り尽くす同氏に意見を聞いた。

株式会社スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役 荒木重雄氏 株式会社スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役 荒木重雄氏 株式会社スポーツマーケティングラボラトリー

PROFILE
荒木 重雄(あらき しげお)
青山学院大学大学院修士課程修了。外資系企業要職を経て、2004年のプロ野球再編騒動をきっかけに、2005年1月千葉ロッテ球団入り。当時のバレンタイン監督と二人三脚で人気球団へと飛躍させたほか、パ・リーグ6球団の事業会社立ち上げに貢献。2009年に独立し、株式会社スポーツマーケティングラボラトリーを設立。2013年から日本野球機構(NPB)特別参与(後にNPBエンタープライズ執行役員)となり、野球日本代表・全世代侍ジャパンの事業戦略、デジタル戦略を担当。戦略、営業、マーケティング、システム・メディア構築から運用までを一気通貫で提供し、幅広くスポーツビジネスを推進している。

興味本位で飛び込んだスポーツ界。激動の千葉ロッテ再建。

まず初めに、荒木さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

「大学卒業後、日本IBMのエンジニアからスタートして、英国、米国系コンピューター・通信会社の要職を経て、最後はヨーロッパ最大の通信会社・ドイツテレコム(ドイツ本社採用)に行き、最終的には同社日本法人の社長になりました。スポーツ界に飛び込むまでは、国際通信の仕事を中心に1995年頃からインターネット関連の仕事をしていたので日本でインターネットが一般化する前のタイミングからずっとインターネットの仕事をしていたことになります。」


エンジニアからキャリアを始められた荒木さんですが、経営や起業は当初から考えられていたのですか?

「正直、何も考えていなかったです。ずっとエンジニアで働くものだと思っていたのですが、転職をした英国系通信会社の会社で経営企画室に飛ばされたことがきっかけで、マーケティングや経営などの勉強をしながら働きました。意図的に営業や経営の部署に行った訳ではないのですが、新しいことやワクワクすることが好きだったので今思えばエンジニアは性に合ってなかったのかもしれません(笑)。
 当時エンジニアをやっていたことはスポーツ業界で活動する際にアドバンテージとなっていて、私自身がコンピューターや通信の基礎に精通しているので、新しいサービスや新しいテクノロジーが出てきても、その構造から理解することができます。」


当時からスポーツビジネスに参画したいという想いはあったのでしょうか?

「全くなかったです。そもそも当時はスポーツ業界で働く選択肢自体がスポーツメーカーに入るぐらいしかなく、球団や競技団体で働くようなイメージはできませんでした。ですが、2004年の球界再編で近鉄球団が消滅したり、ホリエモンが球団を作ろうとしたりと様々な出来事があり、一野球ファンとして『球界に何が起きているんだろう』と疑問を抱いたことがきっかけで、スポーツビジネスってそもそもどのように成立しているのかと興味を持ち始めました。

 今とは違って、当時はスポーツビジネスについて書かれた書籍や情報はほとんどなく、どうやったら勉強できるだろうと探していた時に、東京大学にスポーツマネージメントスクール(SMS)があることがわかって、ドイツテレコムの日本法人代表を務めながら通い始めました。

 スポーツマネージメントスクールのクラスは60人ほどだったのですが、その中で70歳ぐらいの方が1人ものすごく熱心に質問していたんです。『なんだ、あのおじいちゃんは』と思っていたのですが、その方は元国税庁長官で当時の千葉ロッテの球団社長の濱本英輔さんでした。ロッテがホークスと統合になるか、もしくは千葉のままで大改革をするかを判断するために勉強に来ていらしたんです。それを聞いて自分の中に火がつき、見様見真似で勝手にロッテの改革案を作ったんです。次の講座の時に濱本さんにその改革案を持って行って話をしたら『君これをやってくれ』という話になり、翌年から千葉ロッテの大改革を任されることになりました。

 入社後すぐに企画部長を任されましたが、部下0人で、机や電話、パソコン、名刺はないし、2週間ほど社内でも窓側の打ち合わせコーナーで仕事をしていました(笑)。1月1日付入社で、3月末の開幕戦を満員にすることがミッションだったので、入社してからはメディア戦略を始め、集客活動に奔走しました。でも、今振り返るととても良い経験をさせてもらったと感じています。」

二人三脚で千葉ロッテの大改革に奮闘したボビー・バレンタイン元監督と荒木氏 二人三脚で千葉ロッテの大改革に奮闘したボビー・バレンタイン元監督と荒木氏 荒木 重雄

スポーツビジネスは、誰がリスクと責任を取って事業主体になるのか。

その後、ご自身で起業してスポーツビジネスに参入されたのは、どのような意思決定だったのでしょうか?

「単純に、ロッテ球団でやり切った感があったんです。その時点では他球団や他競技へ転職するイメージができませんでした。ロッテで過ごした4年半は、非常に濃密で、ロッテほど面白い仕事は絶対にないと感じていました。であれば、もう少し自由度の高いポジションでやりたいことを探そうと、2009年にスポーツマーケティングに特化した会社を設立した経緯になります。」


2015年のスポーツビジネスアカデミーの設立や、2018年に子会社の株式会社スポカレを作った動きは、スポーツビジネスに関わる人材を増やしていくことを考えてのものでしょうか?

「はい、その通りです。自社で採用する人材の発掘&育成というよりも、スポーツを前に推し進める仲間や椅子を増やすことを目的としています。スポーツビジネスアカデミーは設立から6年経ちますが、受講生もトータルで延べ3600人程になりました。」

スポーツ界で活躍する人材を輩出しているスポーツビジネスアカデミー(SBA) スポーツ界で活躍する人材を輩出しているスポーツビジネスアカデミー(SBA) スポーツビジネスアカデミー

「スポーツビジネス」から「◯◯ビジネスwithスポーツ」への転換を。

「スポーツビジネスに限らずですが、ビジネスは誰かがリスクを取ってコミットし、サービスまで昇華しなくては、間違いなく前に進みません。しかし、どれだけ熱量がある企業や人材が寝ずに働いたとしても一握りの者しか成功できないのがビジネスの世界で、基本失敗するわけです。

 スポーツ競技団体はファンベースを持っているので、何かやればファンからの反応は返ってきます。それ故になんとなく結果が出ているように錯覚してしまうのですが、それだけだとビジネスとして成立する段階までは行ってないケースも多いと思っています。

 これは事業主体が誰なのかというところが明確になっていないことが問題だと思います。例えばスポーツ競技団体が課題を提示して外部の会社に助けを求め、テクノロジー企業が名乗りを上げて、実証実験を行い、成功したとします。しかし、上手くいったその後に、そのサービスの責任者が誰で、実際にドライブしていくのは誰なのか、その責任の所在が不明瞭なケースが多く見られます。

 イノベーション起こしてスポーツ界を変えていくことを考える時、私は事業会社がサービス業のスペシャリストとしてリスクと責任を持って主体になることが理想ではと思っています。ですが、今の現状はプロバイダーとしてサービスを使いませんかと提案(販売)する立場に終始してしまっており、そうするとスポーツ競技団体としてはそのサービスを使わなければならない理由が希薄であるため、コロナ禍も相まって、なかなか動くことができません。

 誰が事業主体になるのかを決めなくてはいけない時に、事業会社サイドが腹を括らなくてはいけないと私は思います。

 しかし、事業会社サイドがそれをできなかった理由もあります。それは、スポーツの競技団体と組んでサービスを展開しようとする際、世の中やテクノロジーがここまで変わっているにも関わらず、ライツやプロパティーなどの権利関係の再編がなかなか見直されていないことが散見されます。つまり、事業会社が扱える権利の範囲や種類が変わっていないので、それらを活用した新しいサービスが生まれづらい環境になってしまっています。

 サービスを提供する時には原材料が必要ですが、事業主体としてスポーツビジネスに参画しようにも、仕入れる原材料が市場にあまり出回っていないことは問題です。本当はやりたい事業があるのに、既得権益や権利の壁にぶち当たってしまう。

 権利を守ること自体はもちろん重要ですが、権利を正しく使ってリターンを取りにいくことがより重要なはずです。本気でスポーツ界と組みたい事業者がいるのであれば、それを成立させるために、スポーツ競技団体は権利関係部分の見直しをして、そこに対する原材料の提供を考えましょうという流れが理想ですね。歴史的に放送、雑誌、新聞、チケットなど、基本全てスポーツ界の外の企業が提供していたサービスでしたが、それをスポーツ競技団体がこの10年ほどで一部内製化している流れがあります。時代が変われば時代にあった新しいサービスが出てくるはずなのに、なかなかインパクトのあるものが他産業と比べ出てきていない感は否めません。

 オープンイノベーションがPOC(概念実証)に終始してしまう現状から脱却するためにも、権利関係の再編が鍵になるのではないかと思います。」

会員3,500名を超えるスポーツビジネスアカデミー(SBA)の理事陣が主宰するオンラインサロン『THE BASE』で登壇する荒木氏 会員3,500名を超えるスポーツビジネスアカデミー(SBA)の理事陣が主宰するオンラインサロン『THE BASE』で登壇する荒木氏 THE BASE

『THE BASE』の概要はコチラ
https://thebase.spobiz.ac/



レギュレーションを変えるためには、旧態然とした体制が変わらないと難しいのでしょうか?

「そんなことはないと思います。スポーツビジネスの権利とは、法律ではありません。もちろん根拠法律はありますが、問題はその根拠法律をどうビジネスの権利に転換させるかが重要な視点です。やりたいことのためにはどんな原材料がいるのかを考え、欲しい素材を見直すなど、権利の棚卸しをしていけばできることもまだまだあるのではないかと思います。

 例えば、我々が2007年に現在のパリーグTVの前身であるプロ野球24(携帯電話でプロ野球パ・リーグの本拠地主催試合をライブ配信するサービス)をやろうとした時に、放送権はテレビが持ってるから無理だと、あらゆるステークホルダーに言われました。普通はそこで諦めるのですが、我々はそこで諦めずに、なぜそれができないのかを考え、法的な部分をクリアするスキームでIPの権利を勝ち取っています。

『この事業をやるためにこの権利が必要』『この権利をやるためにはこういうスキームやフォーメーションが必要』というところのビジネスデザインができれば、まだまだできることは山程あると考えています。従って、長年スポーツ業界に居て、スキームやビジネスプラクティスを理解している私たちのような人間は、新しいチャレンジをする後陣のためにも、交通整理をしてメンターとして貢献していければと考えています。

『なかなか競技団体が動かない』『競技団体側のリテラシーがない』等と言い訳を探すのではなく、自分の力不足を認識した上で、それを実現できる方法を考えていく熱量と智恵がなくてはイノベーションは簡単には起こりようがありません。」


荒木さんが提供するメンタリングを経て、ドライブしたケースや事業はあるのでしょうか?

「守秘義務の関係で具体的にお話しすることはできませんが、大きいものから小さいものまで沢山あります。

 我々スポラボの事業は『IN』『FOR』『WITH』の3軸と定義しているのですが、『FOR』のドメインがそれに該当します。FORドメインではスポーツ業界に参入したい、スポーツ業界に何かを提供したい企業や人たちを支援するサービスで、マーケティング戦略の作成や交渉などを行う形で、国内外の大企業も含め、様々な形でサポートさせていただいています。

 『IN』のドメインは我々スポラボが主体となり競技団体に直接提供しているサービス、『WITH』のドメインでは、企業のコーポレートマーケティングにスポーツを活用するアイデアを提供しています。特にFORスポーツの領域が我々の1番の特徴だと思っていて INとWITHを提供しているや会社はたくさんありますが、FORをやっている会社はあまりない印象です。

株式会社スポーツマーケティングラボラトリー

最後に、メンターとしてイノベーションリーグでやりたいことを教えてください。

「参加いただく皆さんに対してメッセージやキーワードをお渡しして、1人でも新しい気づきやチャンスにつなげていただきたいなと思っています。あえて本音をぶつけ、できない理由やできる理由を構造化させるなど、場合によっては言いづらいことも含め嫌な役も積極的にやっていこうと思っています。イノベーションリーグという場所を、スポーツ内外を繋げるプラットフォームにしていきたいですね。



執筆協力:五勝出拳一
『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事。スポーツおよびアスリートの価値向上を目的に、コンテンツ・マーケティング支援および教育・キャリア支援の事業を展開している。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。

執筆協力:大金拳一郎
フリーランスのフォトグラファーとしてスポーツを中心に撮影。競技を問わず様々なシーンを追いかけている。その傍ら執筆活動も行なっており、スポーツの魅力と美しさを伝えるために活動をしている。

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クラブ名
SPORTS TECH TOKYO
クラブ説明文

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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